雪夢幻想曲
□罪人の譚詩曲
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「アリスさん、やっぱり分からないんですけど」
「え、どの地区の書類?」
アリスは手元の紙から目を離さず、イリーナの言葉に応えた
イリーナは慌てて首を振る
「あ、ち、違います、これじゃなくて」
「んん?」
「その…この前に言っていた、スノウゥさんの話なんですけど」
「ああ──…」
アリスは顔を上げて、イリーナを見た
イリーナの手には、乱雑気味に重なっている書類の束が握られている
ずっとその事を考えていて、仕事が碌に手につかなかったのだろう
ウェポンの襲撃により、神羅はほぼ壊滅状態にある。怪我人も死者も数知れぬ程多く出た
幸い軽傷で済んだアリス達の今の仕事は、怪我人の救出や行方知れずになっている者の確認、近隣の町への避難誘導など、様々なものが多々あった
──やれやれ、とアリスは小さく息を吐いた
イリーナは真っ直ぐだ。何かをしたり考えたりすると、その一つの事に集中する
余計な事を思わないが、逆に余計な事しか思えなくなる時もある
それは彼女の長所であり、短所でもある
「忘れていいよ」
アリスは再び手中の書類に向き直った
世の中には、言って良い事と悪い事がある。あの時、自分は言っては悪い事を言ったのだ
だから彼女の仕事がこんなにも進まない
そんな内容は忘れてしまうのが一番良い
「言われて忘れられるくらいなら、こんなに気にしないし訊きもしませんよ」