黒と茶の幻想

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「水ね、いいよ
 ゼブロ、用意して」

「はい、畏まりました」

中年程のずんぐりした男性が、すぐ傍の小部屋に入っていく
後に聞くが、彼はミケの狩った"人だったもの"の掃除係なのだと云う
ミケの声を聞いて様子を見に来たのだろう

猫眼の男が振り返って、彼女を見やる
先刻まで幼女だった彼女は、今は溜息が出る程の美少女と化している

「イルミ様、水をお持ちしました」

「彼女にあげて」

ゼブロからコップを受け取ると、水を一気に飲み干した
血と水が交ざり合ったものが少しだけ口端から零れ、何処と無く妖艶な雰囲気を醸し出した

「──御馳走様」

口を拭いながら言い、コップをゼブロに返す
片付けに部屋に戻ったのを見送って、彼女に声を掛けた

「落ち着いた?」

「うん、ありがとう
 …質問に答えるね、これは私の念能力」

「あぁ、やっぱりね
 で、君は誰? なんで此処に来たの?」

「待って、この子を治してから答えるから」

そう言って、彼女はミケの傷に触れた
瞬間、光が溢れ、見る見る内にミケの腕の傷は消えていった

「ごめんね、ありがとう、ね」

彼女がミケを撫でる
ミケは気持ち良さそうに眼を細め喉を鳴らした

「(ミケが、懐いてる)
 ねぇ、俺のも治してよ」

「え、おにーさんの、治ってない?」

言われて見てみると、彼の腕に傷なんか何処にも無かった(だって、先刻まで)
そうしたら、血を貰った時に治しといたよ、って、(あぁ、俺の方が早かった)(俺、何を考えてる?)
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