黒と茶の幻想

□片手だけ、繋いで
1ページ/1ページ

大事なもの程、失う痛みが恐くて
気が付いたら
必死に、しがみ付いていた──




かたてだけ、




「アリス、…アリスには大切なものってある?」
「あるよ、いっぱいね」

唐突なイルミの問いに、私はそう速答した
今はもう慣れたけれど、イルミはよくこう云う唐突な質問を唐突にしてくる
まぁ唐突なのはイルミだけじゃないし私もするからお互い様なんだけど、さ
ゾルディックの皆よりも前に知り合った、私の最初の友人…フェイスペイントした自称奇術師のおにーさんもそうだから免疫も出来てたし

「例えば、何?」
「えっとー、」
「俺は…アリスが大切だよ」
「うん? ありがと」

答える前に、イルミが言う
これも恒例
こう云う時は、イルミは落ち込んでたり心配事や不安があったり、心が不安定になってる事が殆ど
それの大抵はキルアの事なんだけど、ね
…今日は違う、のかな?

「怖い」
「え?」
「アリスが、居なくなりそうで怖いんだ、最近」
「…」
「居なくなったら、…嫌だ、アリス」

──ねぇ、イルミ?
大事なもの程、失う痛みが恐い事、私も知ってる
あの村の人や、父さん母さんを失った時、私は壊れてしまいそうになった
膨大な哀しみが、私を潰してしまいそうだった
私はあの村が大好きで、無くすまいとしがみ付いていたから

だから



つないで




イルミも私を、その両腕で抱き締めないで
いつか離れてもいいように、すぐ離せるように

「イルミ、私、今夜出てくね
 "裏切者の涙"、あそこならあるのかも知れない」
「何、言ってるの?」

それが永い別れでも、

「暫くは来れないけど、また遊びにくるね」
「アリス」

ずっと遠くでも、

「幻影旅団に会いに行くの」

私と貴方が泣かないように
きつくきつく、抱き締めないで
貴方は強いから、弱い私に縋らずに歩んでいけるから




片手だけ、繋いで





片手だけでいいの
貴方の温もりが伝わるから




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
珍しく主人公視点


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ