◆ガンダムシリーズ◆

□ゆがんだ空間
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ヒイロは冷たい鋼鉄の床に横たわっていた。手足は拘束され、四方に設置された監視カメラの視線だけが無感情に突き刺さる。
銃などの武器も全て奪われた今、残された選択は2つ。大人しく持っている情報を吐くか、舌を噛んで死ぬか。
昔の自分なら間違いなく後者を選んだだろう。だが、今はなんとしても生き延びなければならない。仲間のため、守るべき故郷のため、そして愛する人のため――。
かつてはただの戦闘マシーンとして訓練された自分が、おかしなものだ。ヒイロは自分で自分を嘲笑した。
その時、ふいに部屋のドアが開いて一人の男が入ってきた。
「気分はどうかな?」
白い軍服に仮面をつけた男。
ヒイロは脳内にインプットした敵対組織の情報を引き出す。たしか、ザフト軍所属、クルーゼ隊の指揮官ラウ・ル・クルーゼであることを思い出す。
ヒイロはひとしきり目標を確認すると視線を落とした。そんな彼をクルーゼは興味深そうに見下ろす。
「電気椅子を使っても口を割らなかったというから、どれほど屈強な男かと思って見に来れば……まだ少年ではないか」
拷問の訓練は一通り受けていたため、普通の兵士よりも耐性が強かったのだろう。ただし、まだ電気ショックの名残で体の痺れは抜けきっていない。
すると、クルーゼがおもむろにヒイロの顎を掴んで顔を上げさせた。
「どうやら、相当訓練された優秀な兵士らしいな。このまま殺してしまうのは実に惜しい…」
「命なんて安いものだ。特に俺のは――」
骨の髄まで刷り込まれた呪いの言葉を吐き捨てる。
ところが、クルーゼは更に口の端を吊り上げて言った。
「本当にそう思っているのかな?」
「……っ」
不覚にも脈拍が乱れてしまった。
「どんなに鍛え抜かれた兵士でも、死に直面すれば必ず抵抗する。それは自分であれ他人であれ、守るべき大切なモノがあるからだ。現に、君は自分の命が安いと言っておきながら、未だに自害をしていない。それには理由があるんだろう?」
「…………」
仮面越しに胸の奥を覗き込まれているようだ。ヒイロは心の中の最も深い所に隠した大切なモノを見透かされないように、クルーゼを睨んだ。
「リリーナ・ピースクラフト」
「…っ!?」
抵抗も虚しく、ヒイロの中の小さな楽園は狡猾な侵略者によって暴かれてしまった。
「一人の兵士のために、いたいけな少女が犠牲になってしまう。これも戦争の悲しい宿命か…」
「やめろ!」
監視カメラのモニターに表示された数字が、刻一刻と時を刻む。ヒイロが監禁されてから既に19時間23分48秒経過している。
「俺はどうなってもいい…。だが、リリーナには手を出すな!」
「おや?君は自分の置かれている立場が理解できていないようだな」
クルーゼはヒイロのタンクトップの裾を掴み、ゆっくりと持ち上げた。
「君の命もリリーナの命も、今は私の手の中にあるのだよ」
首元までめくられ、ヒイロの白い素肌が露わになる。
「もっとも、君の出方によっては考えてやらないこともないが…」
「……何を…!?」
ヒイロが抵抗する間も与えず、クルーゼは一気に彼のスパッツを脱がせた。15歳の少年のあられもない肢体が心無き視線の前に晒される。
「君には並大抵の拷問が効かないようだから、少し趣向を変えてみることにしよう」
そう言って、クルーゼは近くにあったパイプイスに腰掛けた。ねっとりと舐め回されるような眼で見下され、ヒイロはクルーゼをきつく睨む。
しかし、下手に逆らえばリリーナの命が危ない。幸い、体の痺れも徐々に引いてきているため、今は静かに脱走の機会を窺った方が得策だ。
すると、クルーゼが右手の人差し指を折り曲げて手招きした。
「さぁ…こっちへ来て、君の綺麗な顔をもっと近くで見せてくれないか?」
ヒイロは一瞬躊躇ったが、やがて渋々上体を起こした。手を後ろに拘束されているため、膝立ちでゆっくりと近付く。動く度、ヒイロのモノが微かに揺れて背徳的な色香を漂わせた。
「おやおや…。なんて淫らな格好なんだ。こんな姿をリリーナが見たら、さぞ悲しむだろうな…」
いちいち人の心を抉る嫌な男だ。ヒイロは目を閉じて心を無にし、外からの情報を一切遮断した。こうでもしなければ、本当に気が狂ってしまいそうだ。
漸くヒイロが側まで歩み寄った途端、クルーゼは急に彼を蹴り飛ばした。
「ぐっ……げほっ!げほっ!…がはっ!」
溝落ちを蹴られ、ヒイロはうずくまってひどく咳き込む。
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