◆ガンダムシリーズ◆

□愛 戦士
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日中の戦闘が嘘のように静かな満月の夜。
アムロはベッドにもぐって窓から見える月を眺めていた。こういう日はどうしても七年前のことを思い出してしまう。宿敵シャア・アズナブルとの数々の死闘、ララァの死、仲間達との出会いと別れ――。思い出の一つ一つが走馬灯のように脳裏をよぎっていく。
アムロは首を横に振った。
(ダメだ!ティターンズの襲撃はいつ来るか分からない。今のうちに眠っておかないと……)
泉のように湧いてくる思い出をなんとか塞き止め、アムロは眠りにつこうとした。
ところがその矢先、部屋のドアをノックする音に妨げられてしまった。
「……誰だ?こんな夜更けに…」
アムロが気だるそうに体を起こすと、ドア越しに弱々しい声が聞こえてきた。
「アムロさん…。カミーユです…」
「カミーユか!?」
意外な来訪者の名前にアムロは一瞬驚いたが、すぐにベッドから下りると上着を羽織ってドアを開けた。
「すみません、夜分遅くに……」
目の前のカミーユは黒のノースリーブに短パンの軽装だが、その表情は重く沈んでいる。
「その……どうしても、アムロさんと二人だけで話がしたくて――」
「…………」
カミーユは周囲を気にするように目を泳がせ、なかなか視線を合わせようとしない。そんな彼をアムロは何も言わずに部屋の中へ通した。

二人は薄暗い部屋の中、肩を並べてベッドに腰掛けている。先に沈黙を破ったのはアムロだった。
「それで…話というのは?」
「…………」
カミーユは黙ったまま、おもむろにノースリーブを脱いだ。彼の肢体には幾つものキスマークが、まるで自己主張の激しい華のようにその紅い存在感を示している。
アムロは目を見開いて絶句した。すると、カミーユが小声でぽつりぽつりと話し始めた。
「コレは……クワトロ大尉とした時のものです…」
「…っ!?」
アムロの目が瞬時にカミーユの表情(かお)に向けられる。彼は無表情のまま胸に手を当てて続けた。
「別に…無理矢理された訳じゃないんです。ぼくが同意した上で一晩寝て……それから何度か回数を重ねました。大尉はとても優しく抱いてくれたから……だからぼくは、大尉とするのに抵抗は無かったんです。ただ……」
言い掛けて、カミーユは一旦口をつぐんだ。部屋の中に重い沈黙が溜まっていく。アムロは無言のまま彼の言葉を待った。
しばらくして、再びカミーユが口を開いた。
「ただ……最近は、とても不安なんです…」
「不安…?」
「はい…。今までぼくは、大尉がぼくを必要としていたから抱いてくれたのだと思っていました。だけど、本当はそんな理由なんかどこにも無くて、ただ欲求不満解消のためだけにぼくを抱いていたんじゃないかって……」
カミーユは膝を抱えて俯いた。
「そう思うと不安で…最近はなかなか眠れないんです……」
そのまま彼は静かに肩を震わせた。
すると、アムロが着ていた上着をカミーユの肩にそっと掛けてやった。
「別に……理由なんて考えなくてもいいんじゃないのか?」
「……?」
訝しげな眼差しを向けるカミーユを諭すように、アムロは淡々とした口調で続けた。
「確かに性欲処理もSEXをする理由の一つかもしれないが、もしシャアがそういう理由だけでカミーユを抱いたのであれば、カミーユはすぐにでも拒めたはずだ。そうだろう?」
「…………」
カミーユは小さく頷く。なぜなら、彼のニュータイプ能力がシャアのそういった黒い思念をまったく感じなかったからだ。
「だけど、そうしなかった。――ということは少なくとも性欲処理のためだけではないだろうし、カミーユだってシャアと寝ることに抵抗は無かったんだろ?」
「…………」
今までシャアと過ごした夜を思い出し、カミーユは深く頷いた。
「だったら、本当に考えなければならないのは、カミーユ自身の気持ちじゃないのか?」
「ぼくの……気持ち?」
アムロは優しく微笑みながら、カミーユの頭をそっと撫でた。
「もう一度自分を見つめ直してみろ。自分はシャアのことをどう思っているのか。これからはどう付き合っていきたいのか。シャアに真意を問いただすのは、それからでも良いんじゃないのか?」
アムロの言葉が清水のように、カミーユの渇いた心を潤していく。やがて、その水は涙となって彼の目からこぼれ落ちた。
「アムロさん…。ぼくは――」
「もう何も言うな」
アムロは指先でそっと涙を拭ってやった。
「俺はあくまでも個人的な見解を述べたまでだ。この先どうしていくかは、カミーユ……お前次第だということを忘れるなよ」
「……はい」
ようやく落ち着きを取り戻したカミーユに、アムロも安堵の胸をなで下ろす。
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