◆必殺仕事人シリーズ◆

□行方
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一本、また一本と――明くる日も明くる日も花を摘む。美しい赤で彩られた花を。人の生き血を吸って咲き誇る、悪の花々を……。
手折る度にこの手は花と同じ紅に染まる。もはや痛みを感じることすら忘れてしまった。
それでもふと顔を上げれば、見渡す限り一面の赤一色。どんなに摘んでも終わりは見えない。疲労と虚しさだけが募っていく。
そんな殺戮の花畑で彼と出会った。誘惑の花粉が鼻腔をくすぐり、策謀のツタが足元に絡み付いても、彼は悠然と立ち尽くしていた。その手に赤い花束を握りしめながら――。

  *

江戸の町の一角にある小さな花屋で、夜毎密やかに交される秘め事。からっぽの身体に愛しい人の想いが注がれ、ゆっくりと満たされていく。彼をこの身に受け入れられることが何よりも嬉しかった。
ふと気が付くと、隣で寝ていたはずの愛しい人が居ない。体を起こし、求めるように名を呼んでみる。
「政…?」
部屋の中を見渡しても彼の姿は無い。急に込み上げてくる不安と寂しさ。
思わず布団から這い出し、隣の部屋を覗く。窓の外を見やる彼がそこに居た。
たまらなくなって駆け寄ると、彼はひどく驚いた様子で言った。
「竜!?お前ぇ……そんな格好で!」
そっと羽織を掛けられ、胸元に抱き寄せられる。
あたたかい……。
いとおしむように彼の胸板に頬をすり寄せると、太く逞しい腕に包み込まれる。やはり、自分はどうしようもないくらい彼が好きなのだと、改めて実感する。
「政…」
「ん…?どうした?」
ふと、彼の胸に手を這わせた。
「もしも、お前ぇが他の誰かにとられるようなことがあったら……その時は――」
這わせた手をそのまま彼の首元へもっていく。
「俺がこの手で、お前ぇを殺してもいいか…?」
「…………」
もう二度と誰のものにもならないように、自分の中だけにとどめておきたい。それ程まで彼を欲しているのだ。
すると、彼は微かに口元に笑みを浮かべて呟いた。
「好きにしろ」
その言葉に自分も頬が緩むのを感じる。
二人で求め合うように重なり合い、再び夜の闇に溶けていった。
どこへイクのか――行方は誰も知らない。
-END-
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