◆必殺仕事人シリーズ◆

□いただきます
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卓袱台(ちゃぶだい)を囲んで夕飯を食べている二人。たくあんをポリポリと噛んでいる竜と、味噌汁をズズズと啜る政。会話は無い。
政は汁茶碗を置いて醤油に手をのばした。その時、同じように醤油を取ろうとした竜の手が触れた。
「あ…っ」
竜が微かに声を上げて手を引く。
「先に使えよ」
政が促すと、竜は首を横に振った。
「いい…。お前ぇが先に…」
「そうか?じゃあ、遠慮なく使うぜ」
そう言って、政は鮭と冷や奴に醤油をかけた。薄紅色と真っ白な表面に、ほとんど黒に近い茶色が加わる。
「お前ぇの分もかけてやるよ」
言われて、竜は手元の茶碗を差し出した。中には卵を混ぜた飯が入っている。
「これくらいか?」
ある程度加減して醤油を注いでみる。しかし、竜はぽつりと呟いた。
「もっと…」
更に醤油を付け足す。黄色の飯が明るい茶色になった。
「お前ぇ…それは卵かけご飯なのか、醤油飯なのかどっちだよ?」
「卵かけ醤油飯だ」
「……好きなのか?」
「ああ…」
政の精一杯のツッコミを軽く受け流し、竜は好きな飯を豪快に口の中へ運んだ。その横で、政も鮭の皮を頬張る。
竜は一気に飯を平らげ茶碗を置いた。彼の顔を見た政が、思わずクスッと微笑む。
「ほら。お前ぇの好きな醤油かけ卵飯がついてるぞ」
竜の口元についた飯粒を指で軽く拭う。すると、竜が急に手首を掴んできて、飯粒のついた政の指先を口に含んだ。
「……ちゅ……ちゅう……」
たっぷりと唾液で潤った舌で舐めながら、強く吸い上げる。
しばらくして、政の指を吐き出した竜が真顔で言った。
「卵かけ醤油飯だ」
「……どっちも同じじゃねえか」
政は苦笑した。
「俺にはそのなんとか飯を一口も食わしてくれねえんだな」
「欲しけりゃ自分で食えよ」
「……そうだな」
おもむろに政の顔が近付いてくる。今度は政が竜の口を塞いだ。
「…ちゅ……ん……くちゅ…ちゅ……っ……はぁ…」
舌を絡ませ、竜の口内をじっくり味わう。
顔を上げた政は少し複雑な表情で呟いた。
「やっぱり醤油かけ過ぎてんじゃねえのか?」
「お前ぇがいっぱいかけたんだろ?」
「催促したのはどっちだよ?」
「じゃあ、最初から誘うなよ」
しばしの沈黙の後、二人は同時に笑った。
「いい加減回りくどい言い方はやめて、とっとと飯食ったらどうだ?」
「そうだな。後で一番のご馳走を食わなきゃいけねえからな」
政が親指の腹でそっと竜の唇を撫でると、竜は妖しく微笑んだ。
「腹八分目にしとけよ」
今宵も一つ屋根の下、互いに裏の裏まで知り尽くした二人の悩ましい宴が始まろうとしていた。
-END-
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