◆その他版権モノ◆

□The Shackles of Darkness -闇の枷-
1ページ/3ページ

暗い子ども部屋に赤ん坊の甲高い泣き声が響き渡る。側にあったぬいぐるみやおもちゃ、更にはテーブルやイス等の家具も狂ったように宙を舞う。まるで赤ん坊の泣き声に慌てふためいているようだ。
すると、泣き声を聞きつけた一人の男が部屋に飛び込んできた。
「イワン!どうしたんじゃ!?」
男がドアを開けたと同時に、宙を舞っていたモノたちが一斉に動きを止めて床に転がった。つかの間のポルターガイスト現象が終わりを告げたようだ。
男は部屋の中央にある揺りかごに歩み寄った。かごの中の赤ん坊はまだ微かにすすり泣いている。
「やれやれ、こんなに部屋を散らかして……」
男はそっと赤ん坊を抱き上げた。
「何か怖い夢でも見たのか?」
『ギルモアハカセ……』
赤ん坊がテレパシーで男の頭の中に直接話し掛けてくる。
『昔ノ夢ヲミタンダ』
「昔の夢?はて?昔とはどのくらい前のことなんじゃ?」
『ボクガ父サンヲ――』
言いかけて、男の脳内に見たこともない映像が流れ込んできた。

  *

あれは、暗雲たちこめる嵐の日が続く夏の出来事だった。
母さんが旅行に出て行った後、父さんはボクの部屋に入ってきてボクを冷たい手術台の上に寝かせた。
その後のことはあまりよく覚えていない。
ただ、父さんの狂ったような笑い声でうっすらと目が覚めた。その瞬間、頭の中におびただしい量の情報が溢れて、何がなんだか分からなかった。
特殊相対性理論、フェルマーの最終定理、ポアンカレ予想――。分からないことが分かる、分かることが分からない。ボクの頭はどうなってしまったのだろう。
混濁した意識の中、母さんが旅行から帰ってきたのが分かった。父さんと母さんが何か言い争っている。何を言っているのかは上手く聞き取れない。
「かわいそうにぼうや……」
かろうじで聞き取れたのは、ボクのことを心配する母さんの涙声だった。
その時、母さんがボクをそっと抱き上げた。再び父さんと何か言い争っている。
それが、最後に感じた母さんのぬくもりだった……。

『ネエ、父サン……』
ブラックゴーストの研究所に来て数ヶ月が経ったある日。
血走った眼で熱心にデータを凝視している父親に、テレパシーで話し掛けてみた。どうしても確かめたいことがあったからだ。
『父サンハボクノコトヲ、ドウオモッテイルノ?』
「ん?なんだ?」
父親はそっけない返事をするだけで、次々と打ち出されるデータに釘付けになっている。ボクはもう一度尋ねてみた。
『父サンニトッテボクハ、ナニ?』
しばらく間があった後、父親は振り向くことなくこう言い放った。
「イワンはわしの大切な研究成果じゃ」
『…………』
ボクは父親の研究成果……ボクは父親の子ども……研究成果≠子ども……ボクは父親の子どもじゃない……父親はボクの父親じゃない……父親は……。
「かわいそうにぼうや……」
ボクは母親の子ども……ボクは父親の研究成果……母親を殺したのは父親……父親はボクの父親じゃない……母親を殺した悪いヤツ……。
『オマエハ悪イヤツダ!』
ボクはサイコキネシスで父親のふりをしていた悪いヤツを空中へ吊り上げた。周辺に置かれた機械が異様な光や音を発し、ボクが異常であることを示すデータを忙しなく吐き出している。
「なっ…何をするんじゃ!イワン!?」
『オマエハボクノ父サンジャナイ!母サンヲ殺シタ悪イヤツダ!悪イヤツハコラシメテヤル!』
ボクはサイコキネシスで悪いヤツの首を絞めた。どんなに足掻いてももう許さない。ボクの大切な母親の仇だ!
「イ…ワ…ン……や…やめ……」
悪いヤツが手を伸ばして助けを求めてくる。その手でボクはこんな異常な体になってしまい、母親も殺されたんだ。
『父サンノフリヲスルナ!!』
ボクはありったけの力で悪いヤツの首を絞めた。骨が折れる鈍い音がして、悪いヤツは動かなくなってしまった……。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ