◆その他版権モノ◆

□サバト
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もうすぐ終焉の時が訪れる。再び、あの美しい地球を取り戻すために――。
……だが、その前にやらねばならないことが一つだけ有る。

  *

明がシャワーを浴びていると、ドア越しに了の声が聞こえてきた。
「明!タオルと着替えはここに置いておくから」
「悪いな、了!」
今日は明が了の家に泊まりに来ている。
了は親一人子一人の家庭だ。父親は有名な考古学者で海外に出ていることも多く、家にはほとんど居ない。そのため、親友である明が泊まりに来ることを了はとても喜んだ。
(なんだか泊まりに来る度に至れり尽くせりで、了には申し訳ないな…)
明は用意してもらった真っ白なバスローブに身を包み、寝室へ向かった。
部屋に入ると、了がテーブルの上に置いたグラスへ飲み物を注いでいた。
「了、何から何まで用意してもらって悪いな…」
「ああ、構わないよ。それよりも明、寝る前にこれを飲むと良いよ」
赤い液体の入ったグラスを差し出される。明はそれを手に持って訝しげに眺めた。
「なんだ?これ…」
「よく眠れる酒だ」
了はしれっと答えた。
「俺、まだ未成年なんだけど……」
「少量だから構うものか」
笑いながら言う了に明は戸惑いを隠しきれなかったが、せっかく親友が用意してくれたモノを断るのは気が引けたため、有り難くいただくことにした。
「まあ、喉も渇いていたし……少量なら良いか」
明はグラスの中の液体を一気に飲み干した。
「うえ…。やっぱ、あんまり美味しくないな……」
「そうか?でも、これでよく眠れるよ」
「ははっ。そうだな。良薬は口に苦しって言うし…。なんだか眠れそうな気がするよ」
了は空になったグラスを受け取った。
「それじゃあ…おやすみ、明」
「おやすみ、了。また明日な」
了が寝室から出て行くと、明は大きなあくびをしてベッドに潜り込んだ。

時計の針はとっくに午前0時を回っている。
明は未だに眠れず、ベッドの上で何度も寝返りをうっていた。
(変だ…。妙に体が熱い…。酒に酔ったのかな…?)
熱で頭も朦朧としてきた。掛け布団を外しても一向に熱さは変わらず、それどころか体の内側からますます熱が込み上げてくる感じだ。
(ダメだ…。熱い…。俺の体……どうしたんだ?)
ついに着ていたバスローブも脱いで、明は異様な熱さに悶えた。吐く息も熱い。全身から湯気が立ち上っているようだ。
(苦しい…。体中の血が…沸騰しているみたいだ……)
明はシーツを握り締め、地獄の業火に身を焦がすような苦しみにじっと耐えた。
その時、部屋のドアがゆっくりと開かれた。微かに足音が近付いてくる。ソレは明が寝ているベッドのすぐ傍まで歩み寄った。
明が顔を上げると、そこには左手に三叉の燭台を、右手に鋭利なナイフを手にした了が立っていた。服は着ていない。生まれたままの姿で、横たわる明をじっと見下ろしている。
「了…?」
薄闇の中で燭台の赤いロウソクが仄かな明かりを灯し、了の陶器のように白い肢体と、明を静かに見下ろす陰った瞳を照らしている。
「明…。苦しいか?」
了が尋ねてくる。その声はいつもよりもやや高い気がした。
気になる点は多々あるが、明はなんとか現状から抜け出したいという欲求から、藁にもすがるような思いで目の前の了に訴えた。
「了…。俺……変だ…。体が……焼けるように……熱い…」
すると、了は口元に微かに笑みを浮かべて、手にした燭台をサイドテーブルに置いた。
「もう心配いらないよ、明。今その苦しみから解放してあげる」
荒い呼吸をする明の上に、了がそっと覆い被さる。明は不安そうに彼を見つめた。
「了…。俺……このまま死ぬのか…?」
「怖がることはないよ、明。肩の力を抜いて楽にして…。人間としてのセイを吐き出し、新たなセイを受け入れるんだ」
「……?」
目の前の了が何を言っているのか、明には理解できない。
了はおもむろに手にしたナイフで自らの指先を切ると、滴る鮮血で唇を潤した。白い肌の中で紅の血化粧は一際栄える。
そして、了はベッドの端にナイフを突き立て、ゆっくりと体を倒した。
「あ…っ!」
明は思わず息を呑んだ。触れた了の肌は驚くほど滑らかで、冷たい――。明自身の体温が上がっているためかもしれないが、それでも了の体は氷のように冷たかった。
「明…」
了が顔を近付けてくる。
「了…」
明は戸惑いながらも、火照った体に了の体温が心地良いのか、無意識の内に彼の背中に腕を回していた。
了はそのまま、明にそっと口付けした。
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