◆その他版権モノ◆

□お風呂に入ろう!
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瀞霊廷、十一番隊舎の大浴場。本日も任務を終え、一日の疲れを癒すために集まった多くの隊員たちでにぎわっている。
そこへ一人の漢が大きな風呂桶を片手にやって来た。
「お疲れ様です、隊長っ!!」
その場に居た全員が漢に向かって一斉に頭を下げる。彼の名は十一番隊隊長、更木剣八。護廷十三隊の中でも最強の攻撃力を誇る十一番隊を統べる者。剛力、殺戮、戦――それらの言葉がそのまま人の形を成したような出で立ち。そんな剣八の強さに惹かれる屈強な男たちも後を絶えない。
剣八は脱衣所の中をぐるりと一瞥して告げた。
「全員出て行け」
突然の隊長命令に隊員たちも困惑の表情を浮かべる。すると、剣八は更に低い声で言った。
「二度は言わねえ…。全員10秒以内にここから出て行け。そんで俺が出てくるまで誰一人中に入れるな。もし、一歩でも入ってきたヤツは……どうなるか分かってるよな?」
剣八の殺意が一気に膨れ上がる。そして彼が数を数え始めた途端、その場に居た隊員は我先にと出口を目指した。剣八の殺気を感じとったのか、浴室に居た者たちも着るものも着ず急いで退室していく。
剣八が10を数え終えた時には誰も居なくなっていた。無人になった脱衣所へ足を踏み入れ、手にした桶を床に置く。
「もういいぞ」
すると、桶の中のバスタオルを押し退けて一人の女の子が出てきた。
「ぷはっ!……ああ、くるしかった。えへへ!剣ちゃん、ありがとう!」
屈託のない笑顔を見せる彼女は十一番隊副隊長、草鹿やちる。ピンクの髪に小さな体の幼い少女だが、剣八にとって唯一心を許せる存在、それがやちるだ。やちるもまた、悪鬼と恐れられる剣八を誰よりも理解し、信頼している。二人は死神になる前から行動を共にしており、その絆は何よりも固く深い。
そんなやちるが「剣ちゃんといっしょにお風呂に入りたい!」と言い出したものだから、剣八は仕方なく隊舎の大浴場を貸しきることにした。いくらやちるが気にしないとはいえ、見た目には女の子。血気盛んな男たちの前に平然と晒していいはずがない。
剣八のささやかな気遣いを知ってか知らずか、やちるはすでに全裸になっていた。
「剣ちゃん、服着たままじゃお風呂に入れないよ。はやくぬいで!」
やちるが着物の裾を引っ張りながら無垢な瞳で催促してくる。
「すぐ行くから先に入ってろ…」
「わかった。じゃあ、さきにいくね。わーい!お風呂、お風呂ぉ〜!」
お気に入りのおもちゃを掲げて、幼い副隊長は浴室に突貫した。その小さい背中を見届けると、隊長も後へ続くように戦の準備を始めた。

バスタオルの鎧を身に纏い、右手に桶を、左手に石鹸を手にして、戦の鬼は浴室という名の戦場に降り立った。
「剣ちゃんはやくぅ!いっしょにおよごう!」
やちるは洗面器をビートバンにして湯船で泳いでいた。水面にはアヒルやカエル、クラゲのおもちゃが浮かび、床には赤、青、黄色の大小様々な水鉄砲が散乱している。
しかし、剣八はそちらへ行こうとはせず、傍にあった腰掛に座った。
「俺は先に髪洗う」
「あっ!じゃあ、あたし剣ちゃんの背中ながしてあげる!」
やちるが洗面器を被っていそいそと歩み寄る。
「背中ぐれぇ自分で洗う……」
「あたしの特等席だもん!だから、あたしが洗う!」
「…………」
いまいち理由がよく分からなかったが、これ以上言っても無駄だと悟ったのか、剣八は「勝手にしろ」と呟いて頭から湯を被った。
一般の洗髪剤では、トゲ状にセットして先端に鈴を付ける剣八の独特の髪型を維持するのは難しい。そのため、彼はいつも石鹸で髪を洗っている。手の平で白い塊を転がし、泡立てて頭をかく。そのまま首から下まで洗えるため、剣八はこの方法をかなり気に入っている。
「剣ちゃん、きもちいい?」
背後からやちるの声が聞こえた。先程、背中を洗うと断言しておいて、今の今まで洗っているのかどうか気がつかなかった。ただなんとなく、つるつるしたものが背中を這いずっている感触はする。
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