◆コラボ◆

□黄金の空へ(前編)
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暗雲がたちこめる空を、傷の痛みに耐えながら弱々しく羽ばたく。より高く、より遠くまで――。
(ここで倒れる訳にはいかない……。ここで倒れる訳には……!)
だが、高度も速度も徐々に低下し、もはや体力は限界に達していた。翼を動かす度に骨が砕けるような激痛に襲われ、意識は朦朧とする。視界が徐々に霞んできた。
(ダメだ……力が抜けていく……。ワタシは……)
ついに羽ばたくのをやめ、風に身を委ねた。
自分はどこへ落ちていくのか――。
行き着く先も分からぬまま、静かに瞳を閉じた。

  *

黒ひげを追って旅を続けるエース。少しずつだが、その距離は確実に縮まっている。衝突するのも時間の問題だ。
「まいったな……」
大木の下で空を見上げながらエースは呟いた。たちこめる暗雲から大粒の雫が降り注ぐ。それは次第に量を増して雨へと変わった。
エースは全身が火になる“メラメラの実”の能力者。雨に打たれた程度ではビクともしないが、好き好んで濡れようとは思わない。木陰で雨宿りをしながら、しばらく様子を見ることにした。
「全然やみそうにねェ。早くどこかの町に行って、美味いメシが食いたいぜ……。あ、考えたら腹減ってきた」
周囲に人や動物の気配は無い。エースは一人、大木の幹に背中を預けて座り込んだ。
「しょうがねェ。しばらく寝るか」
両手を頭の後ろに回して目を閉じる。雨音が奏でる不規則なリズムを子守歌に、エースは心地良い眠りに入ろうとした。
ところがその矢先、突如としてあらゆる音が耳から離れた。雨音はおろか草木のざわめきも、風の囁きも、まるで最初から何も無かったようにすべてが静寂で包まれる。
不思議に思って目を開くと、今まで降っていたはずの雨が忽然と姿を消し、代わりにまばゆい日差しが辺りの大地を照らしていた。
「あれ?もうやんだのか?」
エースが様子を窺おうとした途端、背中の大木が激しく揺れた。ドンという強い衝撃の後、木の葉に付いていた水滴が集中豪雨となってエースに降り注ぐ。頭上の枝がガサガサと不気味な音を立てた。
「なんだ!?何が起こってるんだ!?」
枝が擦れ合う気配がエースの真上まで近付いてくる。そして次の瞬間、大木から傷だらけの巨大な鳥が落ちてきた。
「……とり?でっけー鳥だ」
エースは目の前に横たわる鳥を、まばたきすることも忘れてじっと見据える。彼の中で警戒心と好奇心がせめぎ合い、後者がわずかに上回った。
エースは鳥に近付いてみた。体長はゆうに二、三メートルを超え、色彩豊かな羽根は見る角度を変えれば七色の輝きを放つ。しかし怪我でもしているのか、全身の羽毛は所々傷んだり汚れたりしている。
「ひでェ傷だ。きっと、力尽きて空から落ちたんだろうな……」
ふと空を見上げれば、暗雲にぽっかりと口を開けたような丸い穴ができていて、そこから眩しい太陽が覗いて見える。よく見るとエースが居る大木とその周辺だけがスポットライトを浴びたように晴れていて、まだ遠くの方では雨が降り続いていた。
「相変わらず、グランドラインの天気はおかしなヤツばっかりだな」
エースは特に気にすることなく、改めて鳥を観察した。
「……こいつ、さっきから全然動かねェぞ?」
試しに鳥の体を軽く揺すってみる。反応は無く、手の平に伝わるはずの温もりもほとんど感じられない。耳を当てると鼓動も聞こえてこなかった。呼吸をしている様子もない。完全に力尽きて空から落ちたのだろう。
「やっぱり、もう死んでるみてェだ……」
エースはおもむろに帽子を脱いで両手を合わせた。名も知らぬ鳥の冥福を静かに祈る――。
すると、腹のムシが盛大な唸り声を上げた。目の前には息絶えた鳥。他に人影も無く、町まではまだ距離がある。
再び帽子を被ったエースはすぐに決断した。
「よし!こいつはおれが食おう!」
目的が決まれば行動は早い。エースは腰に差した短剣を抜いて鳥に突き付けた。しかし、そこでふと思い立つ。
「あ、待てよ。これだけでかいと、羽根をむしるのも一苦労だな……。めんどくせェから、このまま丸焼きにするか!」
エースは短剣を戻し、右手を炎に変えて鳥の体に触れた。火はみるみるうちに燃え上がり、そこに在るモノすべてを紅蓮で包み込む。
「早く焼けねェかな〜?」
焼きたての鳥肉にかぶりつく瞬間を、エースは今か今かと待ち焦がれた。
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