◆松本零士作品◆

□ひととき
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昼休み。学はシリウス小隊のミーティングルームにやって来た。
「あれ?珍しいな。誰も居ないなんて…」
部屋全体をぐるりと見回して入室すると、学は部屋の中央に配置されたソファーに座った。ところが、ソファーの高さがいつもより高く、クッションの感触もやや固いことに学は違和感を覚えた。
慌てて確認すると、なんと彼はブルースの顔面に座り込んでいた。
「ブッ…ブルース!?」
どうやら、学はソファーで寝ていたブルースに気づかず、そのまま彼の顔の上に座ってしまったらしい。
ブルースは声にならない声を上げながら、プロレス技をかけられた時のように右手でソファーの背もたれを激しく叩いている。
「ああっ…!ス…スミマセン!!」
学が慌てて立ち上がると、ブルースは上体を起こして激しく喘いだ。その顔色は驚くほど青ざめている。おそらく、今のブルースをヤ○トの諸君が見れば、きっと“かの総統”と見間違えるだろう。
「あの……大丈夫ですか?」
徐々に呼吸が落ち着いてきたブルースに恐る恐る尋ねると、彼は鬼のような形相で学を睨んだ。
学が驚いて身を固くした途端、ブルースはいきなり彼の襟元に掴みかかった。
「学!!先輩の顔に座るヤツがあるか!?」
「ス…スミマセン…。背もたれで隠れてブルースの姿が見えなかったんです……」
必死に訳を話す学に悪気が無かったことを悟ったのか、ブルースは自然と手の力を緩めた。
「ちっ!…ったく」
ブルースは学から手を放すと、再びソファーに座り込んだ。解放された当の本人は掴まれた襟元を直しながら、小さなため息をついた。
(まったく…。相変わらず乱暴だなぁ…ブルースは……)
すると、その乱暴者がソファーを軽く叩きながら言った。
「学。ちょっとココへ座れ」
「えっ!?……あ、はい…」
唐突に命令され、学はおずおずとブルースの隣りに座った。
「あの……なんですか?」
恐る恐る尋ねると、ブルースは突然ソファーの上で横になり、学の膝に頭を乗せた。
「えっ!?……ちょっ……ブルース!!?」
「15分後に起こしてくれ。それまで、ドコにも行くなよ」
「そんな!?ずっとこの格好で居なきゃいけないんですか、ブルース!?」
ブルースのあまりの行動に不満を訴えたが、彼は既に静かな寝息を立てていた。
すっかりブルースのペースに流されてしまった学は一際大きなため息をつきながら、がっくりとうな垂れた。
(もう……。ブルースってば、勝手過ぎるよ……)
しかし、膝の上で無防備な寝顔を晒すブルースを目の当たりにした途端、学の不満は清水に溶けていくようにゆっくりと消えていった。
(だけど…普段、ほとんど休まないはずのブルースがこんなに寝るなんて…。よっぽど疲れてるんだろうなぁ……)
学は無意識の内に、ブルースの頭をそっと撫でていた。同時に、自分に信頼を寄せてくれる彼に対して、急に例えようのない愛しさがこみ上げてきた。
「ブルース……」
温かく切ない感情が学の背中を後押しする。彼はゆっくりかがみ込むと、眠れるブルースにそっとキスを落とした。
「俺は……ココに居ます」
若きシリウスの申し子は、その瞳に“愛”という名の光を宿しながら、最愛の人と寄り添い合う今という時の永遠を、心から願ったのだった……。

  *

その後、学がブルースの寝顔につられて眠ってしまい、結局約1時間も昼寝をしてバルジ隊長から大目玉をくらったことは言うまでもない。
更にその後、学がブルースから強烈な鉄拳をお見舞いされたことも言うまでもない。
-END-
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