◆松本零士作品◆

□白い朝
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学はうっすらと目を開いた。心地良い眠りから覚めた直後は、まだ頭の中がぼうっとする。
寝惚け眼で辺りを見回す。天井、カーテンの隙間から漏れる光、ハンガーに掛けられたシリウス小隊の制服。そして――。
「ブルース……」
隣には愛しき人。昨夜、お互いの気持ちを確かめ合うために体を重ね、何度もその名を呼んだ。彼の腕の中で眠りにつける夜ほど、幸福な時は無い。
学はブルースの寝顔を静かに見つめた。耳を澄ませると、時計の針の音に混ざって微かに彼の寝息が聞こえてくる。
学は安堵の笑みを浮かべた。
その時、彼は何か思い立ったのか、おもむろに体を起こした。ブルースを起こさないよう、ベッドからそっと出ようとする。
その矢先に後ろ手を掴まれた。
「あっ…!」
振り向くと、案の定ブルースの怪訝な眼差しがこちらに向けられていた。
「どこへ行く気だ?」
ブルースは決して逃さまいと、学の手首を強く握る。
すると、彼は少し困ったように呟いた。
「あの……トイレに……」
「…………」
ブルースはしばらく学を見つめていたが、やがて手の力を抜いて彼を放した。
「すぐに戻ってこい……」
そう言い残し、ブルースは再び青い瞳を閉じた。
(ああ…驚いた……)
学は小さく溜め息をついてベッドから出た。流石に裸のまま室内をウロウロするのは憚られるため、彼はハンガーに掛けられたブルースの制服を纏った。
(ブルースの匂いがする……)
少し大きめの制服に包まれ、学はどことなく安心感を覚えた。

トイレから戻ると、相変わらずブルースは小さな寝息を立てていた。学は制服を掛けて再びベッドにもぐり込む。
すると、急にブルースの腕の中に抱き寄せられた。
「ブルース…!?」
「学……」
戸惑う学の耳元で、ブルースはそっと囁いた。
「あまり、俺の元から離れるな」
「……っ」
学の体を抱き締める腕に力が込もる。
「側にいてくれ……」
ブルースはいとおしむように学の頭をそっと撫でた。
「……はい」
学もブルースの背に腕を回し、彼の胸に顔を埋めた。優しい鼓動が耳に心地良く響く。
二人はひっそりと寄り添い合い、互いの温もりを感じながら再び眠りについた。彼らを脅かすものは何も無く、ただ穏やかな時だけが小川のようにゆるりと流れていくだけだった――。
-END-
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