◆その他版権モノ◆

□ドラゴンボールif 〜惑星ベジータの平凡な一日〜(前編)
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バーダックは心の底から湧き上がってくる怒りに激しく身震いした。今日ほど、息子であるカカロットを憎いと思った日は他に無かっただろう。
「カカロットの奴……またオレの布団で寝小便しやがったなあああ――っ!!!!」
その怒声は、まるで大猿が月に向かって咆哮するように大気を震わせた。
カカロットの兄であるラディッツはバーダックの声を聞きつけて一目散に部屋に入ってきた。
「親父、どうしたんだ!?」
その時、ラディッツは朝食の目玉焼きを作っている最中だったため、エプロンを着てフライ返しを手にしていた。
「カカロットがまたオレの布団で寝小便しやがった。これで10回目だ!」
バーダックは沸々とこみ上げてくる怒りを抑えきれず、胸の前で握り拳をつくった。
「今日という今日は絶対許さねえ!!約束通り尻叩き1000回の刑だ!!!」
カカロットへの仕置きに燃えるバーダックに動揺しつつも、ラディッツはある事を打ち明けた。しかし、その事が後にとんでもない大騒動にまで発展しようとは、今のラディッツは勿論のことバーダックも夢にも思わなかっただろう。
「それはそうと……親父、オレのスカウター知らねぇか?今朝起きてから見当たらねえんだ」
「スカウターだと…?」
スカウターとは、相手の戦闘力を測り数値化する小型メカのことだ。サイヤ人はこのスカウターによって相手の現在位置までも特定することができる。つまり、スカウターはサイヤ人にとって発信機のような物だ。
その時、バーダックはいつも枕元に置いていたはずの自分のスカウターが無くなっていることに気がついた。
「オレのスカウターも無くなってやがる」
「えっ!?じゃあ……まさか!?」
この状況において最も疑わしい人物は一人しかいない。バーダックは布団に描かれた世界地図を見て苦笑した。
「やりやがったな……カカロット」
近所の住人によると、この時のバーダックの戦闘力は約2倍にまで上昇していたといふ……。

  *

森の中を駆ける一つの小さな影があった。黒髪を揺らしてシッポを大きく振りながら走るその姿は、まるで本物の小猿のようだ。
「たああああ――っ!!」
影は大きく跳躍し、空中で一回転すると見事に着地した。その手には2個のスカウターが握られている。
お察しの通り、影の正体はバーダックの息子にしてラディッツの弟、カカロットだ。
カカロットは辺りを注意深く見回して人気が無いことを確認すると、ほっとため息をついた。
「よーしっ!ここまで来りゃあ、父ちゃんや兄ちゃんに見つかんねぇだろ」
カカロットはその場にしゃがみ込むと、ものの10秒ほどで地面に穴を開けて、家から持ち出してきたスカウターを埋めた。おしまいに2〜3回地面を踏み均し、彼は手に付いた土を払いながらにんまり笑みを浮かべた。
「へへっ。これで安心だ……ん?」
その時、カカロットの小さな腹から恐竜の唸り声のような低音が聞こえてきた。空腹を示すサインである。
「うわっちゃ〜!安心したらハラへっちまった。そういや、オラ、朝からなんにも喰ってねえな」
彼は自分の腹をさすりながら眉を寄せた。
「よしっ!なんか力(りき)のつくうめぇもんでも探すか!!」
カカロットは自らの欲求の内の大半を占める食欲を満たすべく、再び森の奥深くへと走り出した。しかし、彼はその森がベジータ王の宮殿の敷地内であることを知る由もない。

  *

バーダックはようやく見つかった代用のスカウターを左目に装着した。しかし、それは中古品なのか、画面に映し出された文字はやや薄くて見えにくい。
「ちっ!!こりゃあ、長くは持ちそうにねえな」
「親父……本気でカカロットを捜すつもりか?」
先程、家中をひっくり返してスカウターを探したラディッツは、埃とクモの巣でひどく汚れていた。
「当たり前ぇだ!!あいつはまだろくに空も飛べねぇから、そう遠くへは行ってないはずだ。それに――」
言い掛けた言葉をバーダックは寸前でのみ込んだ。ラディッツにはなんとなく、父親の言わんとする事が分かっていた。
(まあ……カカロットのことは、死んだお袋からも頼まれてたしな……)
しかし、バーダックが口籠もったのにはもう一つ別の理由があった。
「いた。ここから距離1070のポイントを更に北西へ進んでやがる」
薄く表示された数字をバーダックは淡々と読み上げた。おそらく、その数字と方角を聞いたサイヤ人のほとんどがラディッツと同じように表情を強張らせただろう。
「距離1070に……ほっ……北西だと!!?」
「…………」
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