◆その他版権モノ◆

□ある夏の日の記憶
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その時、木の上にとまっていた小鳥がカサカサと小枝を揺らして飛び立った。瞬間、アンドレはハッと我に還り、慌ててオスカルから顔を離した。彼女は小さな寝息を立てている。目を覚ました様子は無い。
アンドレは安堵のため息をつくと同時に、胸の奥から深い自虐心が急激に押し寄せてきた。
自分はあやうく大変な過ちを犯そうとしていた。影ながらオスカルを護り続けることこそが、自らの絶対的使命であると肝に銘じてきたはずなのに……。
今ここに手頃な短剣があれば、間違いなくソレで自分の喉を切り開いただろう。この身に、オスカルと同じ真紅の血潮が流れているかどうかを確かめるために――。
オスカル。こんな不甲斐ない自分を許してくれ…!
「アンドレ…」
ふいにオスカルが名を呼んだ。やはり起きていたのではないかと思ってよく見たが、オスカルは眠ったままだ。今のは寝言だったのだろう。
しかし、見れば見るほど彼女の表情はとても穏やかで神々しく、どんな宝石よりも美しく輝いて見えた。
アンドレは悟った。やはり、今は何も望むまい。こうして傍に寄り添っていられるだけでも幸せなのだから……。
アンドレも安心したように微笑むと、静かに瞳を閉じた。

穏やかな昼下がり。森の奥にある原っぱで、木陰の下に寄り添い合って眠る二人の姿を誰も知らない。ただ、その周りを包む母なる自然が、二人を優しく祝福していた。
今となっては遠い夏の日の記憶――。
-END-
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