◆コラボ◆

□黄金の空へ(前編)
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……ところが、しばらくしても美味しそうな匂いはおろか煙一つ立ち上ってこない。
「あれ?こいつ、ホントに焼けてるのか?」
一旦手を離して確認する。鳥は焦げ目一つ無く、七色の羽根がより美しい輝きを放っていた。心なしか全身の傷も少し癒えたような気がする。
これにはエースも驚いた。
「なんだあ!?こいつ、全然焼けてねェ!」
しかし、鳥は依然目を閉じたままピクリとも動かない。息絶えているのは確かだ。
エースは右手に次いで左手も炎に変えた。
「しょうがねェ…。ちょっと焦がすかもしれねェが、火力を倍にしてやる!」
両手で鳥の体に触れ、火の勢いを更に強める。エースを中心に周囲の草が少しずつ焼け野原へと変貌していった。
(あたたかい……。ワタシの体を覆うこのぬくもりは……火?生命の炎――?)
だが不思議なことに、エースの両手をもってしても鳥はまったく焼けない。それどころか、炎は鳥の体へどんどん吸い込まれていく。
「なんだ!?やっぱりこいつ、全然焼けねェ!?こうなったら――!」
エースは右腕を振り上げた。その拳は一気に熱く激しく燃え上がる。
「火拳!!」
直後、エースは思いっきり腕を振り下ろした。炎の拳が鳥の体を打った瞬間、それはカッと目を見開いた。
「ホウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーーゥ!!!!」
突如、鳥が翼を広げて起き上がり、空に向かって力の限り咆哮した。天を覆っていた暗雲は一瞬で晴れ渡り、巨大な虹が空にかかる。眩しい太陽が雨に晒された大地を照らし、そこに在るすべての生命(いのち)を温めた。
目の前で次々と起こる不思議な現象に、エースはただただ目をまるくする。すると、天を仰いでいた鳥がこちらへ向き直った。
「感謝する。ワタシの命を再び燃え上がらせた、その生命の炎に――」
先程まで息絶えていたはずの鳥が、実に堂々とした口調で礼を言った。おまけに全身の傷もすっかり癒えている。
エースは考えた。
(鳥が喋る。鳥が生き返る。鳥が焼けない。おれのメシが無い。空が晴れる。虹ができる。いい天気だ。おれは元気だ。鳥も元気だ。……だったらそれでいいか)
とりあえず、すべてを受け入れることにした。
「そうか。そいつは良かった」
何はともあれ、瀕死だった鳥を助けることができたのは事実だ。穏やかな笑みを浮かべるエースに、鳥は改まってこう告げる。
「ワタシの名はホウオウ。もはや風前の灯火となっていた我が身を救ってくれた、命の恩人の名を知りたい」
ホウオウと名乗る鳥は、嘴(くちばし)をほとんど動かすことなく言語を介する。その声は耳に聞こえるというよりも、頭の中や心に直接響くような感じだ。
「おれはエース。白ひげ海賊団二番隊隊長、人呼んで“火拳のエース”だ!」
エースも堂々と胸を張り、誇り高き海賊と自らの名を唱える。
「エース。危ないところを助けられた。本当に感謝する――」
地面に着きそうなほど深く頭を下げるホウオウ。その姿にエースはとても申し訳ない気分になった。
「いや、助けたって言うか……まあ、結果オーライってヤツだ。礼には及ばねェよ」
流石に「丸焼きにして食おうとした」とは言えない。
「それよりもホウオウ……だっけ?お前、いったい何者なんだ?ただの動物には見えねェけど……能力者か何かか?」
再び頭を上げたホウオウは首を横に振った。
「違う。ワタシは古(いにしえ)より、この世界の空と大地を司る者。動物や人間とは異なるが、決して遠い存在ではない」
「なんだそりゃ?……じゃあ、ひょっとして“神様”ってヤツか?」
「そう呼ばれていたこともある。……しかし、実のところワタシ自身も自分が何者なのかよく分かっていないのだ。気が付けばココに存在していた――ただそれだけだ」
「……なるほど。とりあえず、普通の生き物じゃあねェみてェだな……。けど、自分が何者かなんて、そんなの一生分からない方がいい場合だってあるんだ。あんまり気にするなよ」
エースは笑いながら言った。その言葉はどことなく、彼自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
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