07/01の日記

21:20
一角獣を追え! 〜六羽の白鳥編〜(前記)
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突然現れた白鳥は、女の子を捕まえようとしたメルクリウスの手を嘴(くちばし)で激しくつついた。
「痛てて!なんだ、この鳥は!?」
メルクリウスが驚いて手を引っ込めると、白鳥はおいら達に向かって威嚇するように激しく鳴いた。まるで、女の子には一歩も近付けさせないぞと言わんばかりに――。
「うるせえな!一体なんなんだよ!?」
「小人さん。通訳してもらえますか?」
白い蛇をかじった時から、おいらは動物の言葉が分かるようになっていた。この白鳥達の鳴き声も、よくよく聞けばみんな同じようなことを言っている。
「“妹に手を出すな”って言ってるよ」
「は?いもうと?白鳥の妹って人間なのか?」
「いいえ。ひょっとしたら、彼女はイモウトという名前なのかもしれませんよ」
ソーセージの一言に白鳥達は一斉に反論した。
「“違う。正真正銘、僕達兄弟の末の妹だ”って……」
「なにぃ?!白鳥の卵から孵(かえ)る人間だと!?いくら頭の悪いオレサマでも、そんなの嘘だってことくらいすぐに分かるぜ!」
「待って下さい、怪物さん。この白鳥達の澄んだ眼差しをご覧なさい。彼らは決して嘘などついていません。カエルの子どもがおたまじゃくしであるのと同様に、この広い世界には白鳥の卵から孵る人間だって存在するのです!残念ですが、我々の敗北を認めましょう……」
「おい、ソーセージ!料理人のお前がそんな弱気でどうすんだよ!?」
「料理人だからこそ、食材の気持ちは痛いほど分かるのです!」
「ソーセージ……お前……」
「あのさ、通訳してもいいかな?」
喋るソーセージと怪物が白鳥と女の子の前で漫才をする姿は思った以上にシュールだった。

(つづく)

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21:20
一角獣を追え! 〜六羽の白鳥編〜(中記)
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おいらが動物の言葉が分かることと、一角獣をおびき寄せるために女の子を探していたことを話すと、白鳥はこう言った。
「僕達は悪い継母に白鳥にされてしまった王子なんだ。人間の姿に戻るためには、妹が六年間ゆうぜん菊でシャツを六枚縫わなければならない。そしてその間、妹は口をきいても笑ってもいけないんだ。さもないと、それまでの仕事は全て水の泡になってしまう」
女の子が必死で声を抑えていたのは、自分の兄を救うためだったんだ。
白鳥の話を通訳すると、ソーセージとメルクリウスは提案した。
「それでは、妹さんをしばらくお借りするという形にしてみてはどうでしょう?妹さんには原っぱでいつも通りお仕事をして頂いて、ワタシ達が一角獣を退治したらまたこの木の上へ戻すと……」
「ついでに、シャツの材料になるゆうぜん菊も集めてやろうぜ!そいつでレンタル料もチャラだ!」
「なんか、急にまともなこと言うようになったね……」
白鳥達にこの提案を申し出てみた。でも、大切な妹を見ず知らずの小人とソーセージと怪物に渡すのはかなり勇気がいる。案の定、白鳥達はひどく渋った。
「やっぱり無理かな…?」
「小人さん。諦めるのはまだ早いです!白鳥さん達も、きっとワタシ達の熱意を理解してくれます!」
「そうだぜ!こんな上玉のショジョはそう滅多に見つかるもんじゃねえ!こうなったら、オレサマはテコでもここを動かねえぞ!」
「いや、だからそれが良くないんだって……」
やっぱり、処女を探すというそもそもの目的から見直した方がいいのだろうか……?

(つづく)

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21:20
一角獣を追え! 〜六羽の白鳥編〜(後記)
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その時、白鳥がおいらに尋ねてきた。
「ところで、君達はどこから来たの?」
「この森の奥にある、ヤーコプ・ヴィルヘルムの館だよ」
今更だけど、この館の名前はちょっと言いにくいと思う…。
すると、白鳥達の目の色が急に変わった。
「君達は、ご主人様の館の住人なのかい!?」
「そうだけど……ご主人様を知ってるの?」
「知ってるも何も、僕達が元の人間の姿に戻る方法を教えてくれたのは、その館に住んでるご主人様なんだ!」
……ご主人様って、普段から外に出掛けて何をしてるんだろう?おいらは彼のことを何も分かっていない。
「おい、ルシュティル!さっきからお前だけ白鳥と喋りやがって……。ちゃんとオレサマ達にも通訳しろよ!」
「ああ、ゴメン…。えっと……“妹さんを連れて行ってもいい”ってさ」
「なんと!?やはりワタシ達の熱意が伝わったのですね!」
「ああ……うん、そうみたいだね」
本当は白鳥が「ご主人様には恩がある。そのご主人様の館に住んでる君達なら信用するよ。妹をよろしく頼む」と言ったんだけど、ソーセージとメルクリウスには詳しい話を伏せておいた。
「それじゃあ、遠慮なく連れて行くぜ!」
「あ、白鳥が“目的を果たせたら、妹をちゃんとこの場所に戻して欲しい”って念を押してたよ」
「分かってるって!……ほら、嬢ちゃん!オレサマの手に乗りな!」
メルクリウスが女の子に手を差し出す。
「大丈夫です!アナタのお兄様方から了解を得ました。ワタシ達を信じて一緒に来て下さい!」
女の子は白鳥の姿になった兄達の目を一つ一つ見つめる。六羽の白鳥はみんな無言で頷いた。
女の子は二枚のシャツと縫いかけのシャツ、そして菊の入った籠を持ってメルクリウスの手の平に乗った。
いよいよ一角獣に会いに行く。果たして、おいら達は無事に生還できるだろうか――。

(記入者:ルシュティル)

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