◇SOS団・SS
□フレグランスオブスパイシー
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今日は、長門さんとの帰り道です。
「…長門さん、気のせいだったらよいのですが?」
「何」
「もしかしたら、何か怒ってます?」
「……………………ない」
…怒ってますね。
誤魔化したつもりでしょうが、今日の声色はブリザード模様です。
「すみません、理由をお聞かせ願えますか?」
「怒ってなどいない。ただ、他の表現をするなら」
僕を見上げる長門さん。
黒曜石のような瞳が僕を貫く。
「私は『ムカついて』いる」
「ええっ!どど、どうしてですか?!僕、何かしました??」
「厳密に言うなら、貴方は何かはしていない。しかし…」
今日1日をフルスピードで回想する。
…もしや?
「…調理実習のお菓子なら丁重にお断りしましたよ?」
「その場面は目撃済み。貴方が受けとっていないのも確認した」
長門さんの前髪が揺れる。
「なら、機嫌を直してください。今日はせっかく2人で帰れる日なんですし」
「『頭ではわかっている』と言うことを今回のエピソードで私は初めて経験。貴方がクラスメイトにチョコレート菓子をもらっていない姿を私はしっかり認識している。しかし…」
「しかし?」
「貴方が彼女達に向けていた笑顔はダメ。私にとって蓄積されるエラーとなる」
つまりそれって長門さん…。
犬も喰わぬっていうものですね。
囁くような彼女の語りにいつしか僕は最初の緊迫感から解放され、ひたひたと充足感を感じています。
だから言っておきましょう。
「僕が好きなのは長門さんだけですよ?」
「…それはより以前に確定済み」
「わかってらっしゃるなら、機嫌を直してください」
「機嫌は直す」
「よかった」
「古泉一樹」
「何でしょう?」
「今回の件で『古泉一樹を長門有希の物』と知らしめておくことが重要とわかった」
「大げさな言い方ですね。嬉しくは思いますけど」
と、スマイルからニヤけた顔になりかけた瞬間―