短編

□ナイショ
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「ローくん、今度は3組のマドンナを振ったらしいわよ」

『あ、そう』


背中をあわせストレッチをしていたら、反対側の友だちにそんな話をされた

ローくんというのは1つ下の男の子で、とてもかっこよく、成績もよく、意外と男子からもしたわれているとのこと。私は3年生だから学校で彼と関わることはないのだけれど、人気者は学年問わずこういったウワサが流れてしまうようだ

友だちをおろし、今度は私が友だちの背中に乗る


「あんなかわいい子がダメなんて、ちょっとナマイキよね」

『人には好みがあるんだから別にいいじゃーん』


あー、背中が伸びるー


「まぁあたしも昔告白してフラれた者の一人だが」

『そういえばそんなこともあったねー』


確か彼が入学してすぐのことだった気がするよ。と、こぼしながら互いの肩に手を置き体を前にそらす。ふくらはぎあたりが張ってちょっと痛いが、ちょっと気持ちくもある


「アンタって淡泊よね。ローくんに興味ない女子なんてそういないのに」

『人には好みがあるのだよ』


最後に何度か屈伸をしてストレッチ終了。先生の指示に従いバドミントンのラケットとシャトルをにぎってコートに入った。反対側にはあまり親しくない同じクラスの女の子が二人、立っている


「でも好きな人はいるんでしょ?」

『さぁ、どうでしょう。ほらいくよ』

「はいはい」


ポンッ。シャトルを下から弧をかくように打ち上げる。パシッと軽い音がしたあと、シャトルがゆっくり返ってくる


「そぉーれっ…あ」

『バカ』


それを打ちかえしたのは友だちで、力任せに打ったせいでシャトルはコートの線を大幅にまたいでしまった


「ごめんごめん」

『体育の成績あんまよくないだんからやめてよね』

「わぁかってるって」


ささ、次いこっ。と続けて言う友だちの顔に反省の色はない。まぁ私も本気で怒っているわけではないので小さく笑って顔を前に戻した

今度は何度かラリーが続き、相手のミスでこちらに1点。同点である


『飽きた』

「はやっ!アンタそんなんだから体育の成績悪いんだよ!」

『うるさいなー。動くの好きじゃないんだもん私ー』


これだったら数学の問題解いてた方がラクだなー。と言うと友だちはいつも顔をこれでもかというほど歪めるので今日は飲み込んだ

退屈な体育。でもやめることもできないので仕方なく試合を続ける。何度目かのサーブで私たちの勝利が決まると、私はすぐさまトイレへと逃げた


『あっつい』


たいして動いていないのに、私の体にはいささか汗がにじんできた。タオルでそれをふきとり体育館裏の水道で顔を洗う

来る途中に更衣室から持ってきた携帯が震えた


『もしもし』


着信だったので指をすべらせて電話をとったのに、相手からの返答はない。だが私はそれがいつものことだと知っている。相手が誰かなんて見なくてもわかる

だって授業中に電話をかけてくる相手なんて、私のまわりには一人しかいないのだから


『用がないなら切るよ、ローくん』


そう言えば、電話口の彼は小さく舌を打って「俺だ」なんて返してくる。オレオレ詐欺ですかってつい言いたくなってしまうけれど、今日は素直にどうしたのと返してあげる


《別に、何もない》

『今授業中だよ。またサボってるの?』

《俺よりも知能の低いヤツに教わることなんざねぇよ》

『またそういうこと言う』


頭がいい彼は、こうしてよく授業をサボる。でもなまじ成績がいい分先生たちから注意されることはあまりない。だから私がこうして毎回注意をするのだけれど、授業を抜け出して電話をしている私も共犯だ


『今ね、バドしてたんだ。運動不足にはつらいね』

《体力ねぇな》

『私は頭脳派なの。キミだってあまり動かないじゃない』

《やればできる俺とやってもできないお前を一緒にするな》

『あ、そういうこと言うと今日の予定キャンセルしちゃうぞ』

《………》


不満げな沈黙。数秒後、おもしろくて笑ってしまうと彼は再び舌を打った。そして気まずそうに小さく「悪かった」と謝る

意外と素直なんだよ


《放課後、いつものところで待ってる》

『ん。わかった。楽しみにしてるね』

《転んで怪我なんてすんじゃねぇぞ》

『ふふ、はーい』

《じゃ、放課後》

『うん』


ここで会話終了。いささか話しすぎてしまったようなので、小走りで体育館へ戻る。先生に見つからないようにそろりと友だちの座っている隣に滑り込んだ


「次、あそこの試合終わったらやるよ」

『うん』

「…ねぇ。アンタいっつも体育のときいなくなるけどさ。なんかしてんの?」

『なんで?』


意外と鋭い友だちに表情を崩さず聞き返す。友だちは間髪入れずに「いつも戻ってきたあと嬉しそうだから」と答えた

ちょっとドキッとした。顔に出しているつもりはなかったから。どうしよう。この子には言ってもいいと思うんだけど


『なんでもないよ。休憩ってすばらしいよね』

「ホント体育キライよね、アンタ」

『うん』


やっぱりやめた。もうちょっと、この秘密の関係を楽しみたいから







(それにしても、ローくんの好み気になるわー)
(物好き、ってことにしとけば?)



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