短編小説

□夢にまでみた
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いまなにがおこった?

まるでコマ送りの映像、近づいて、少し止まって、離れた古泉の切なげな顔。やけに熱くなった頬と唇。
頭の中に反響する、あなたが好きです、古泉の声。
あ、あぁ、わかった、いつもの夢だ。何だか数倍くらいリアルだが。
古泉の匂いがするのはあれだ、あの…気のせいだ。
後は起きて、いつもの自己嫌悪に陥るだけ。ほら、目覚めろ俺!
「…いきなり、すみませんでした。」
え、あれ、目、覚めないのか?
「貴方を困らせるつもりは…」
「もっかい。」
夢の中なら、誰にも責められはしないだろう。
「あの…?」
「もっかい。早く、覚めちまうだろ。」
キス、なんて単語は夢の中でだって言えない俺は、焦れて自分の唇を示す。
「では、お言葉に甘えて。」
いつもの張り付けた笑顔でなく、何だかもっと嬉しそうな顔(俺にはそう見えた)で、近づいてくる古泉の顔。
俺はもう暫くこの夢が覚めなければいいのに、と思った。

「もう一度、キスをしてもいいですか?」
「あ?」
「いえ、あまりにも嬉しくて…」
目に、わずかに涙をためた古泉が言う。おれは、こいつのこんな表情見たことないぞ。
嬉しいような、なんだか複雑な顔。
まさ、か…
「古泉、これ、夢じゃ、ないのか…?」
急に口が渇いて、上手くしゃべれなくなる。
「夢だと思っていたんですか?」
珍しく、驚いた顔をする古泉が、滲んで見えた。
「ど、どうしたんですかキョン君!?キスが嫌でしたか?」
「…、ちが…、こいずみ、もっかい、」
やさしく頭を数回なでられた後に、俺と古泉の唇が再び重なった。
涙を止められないまま、古泉にしがみついてやっと一言だけ言った。
「こいずみ、好き。」

夢にまで見た

古泉は俺の涙が止まるまで頭をなでていてくれたのだった。





私はキョンが泣いてしがみつくのが好きなようですね←
 

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