長編小説2 人魚姫

□月明かりの夜に。
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僕はまたあの砂浜に来ていた。
前髪を揺らす海風は、あの日と良く似ていて。

面倒な人間関係や縛られた生活が嫌になった時、決まって僕はこの砂浜に来て海の彼方を眺めるのだった。
夜の海はいつも静かで孤独で、ひどく居心地がいい。
その日も、そんな風にこの砂浜に来た。
でもそこにはいつもと違い、先客がいて。
驚いてつい凝視した。こんな時間に、海に入っている少女がいるだなんて、誰が想像するだろうか。
その光景はまるで童話の「人魚姫」の様で、声も出さずに僕は彼女を見つめた。
すぐに彼女は僕に気付き、ちゃぷん、という音を立てて海の中に消えていったのだった。
僕はすぐには理解できなかった、揺れる水面に一瞬だけ見えた尾ひれのようなものを。

疲れているんだ、全て幻だったんだ、忘れようと僕は思った。
それでも、あのときたった数秒間だけ見たあの顔は僕の頭から離れることはなくて。
あの長い髪に触れたい、色の白い頬に、ふっくらとした唇にキスをしたい、彼女をもっと知りたい…。
僕は毎日あの砂浜に通った。
どうかしてると自分でも思ったけれど、彼女の姿を探し続けた。

でも、まさか本当に見つけることが出来るとは。
その、声を無くした美しい少女に。





古泉は王子役が似合うと思う!

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