長編小説2 人魚姫

□綺麗な彼女、言えない想い。
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「キョンさん、今日はありがとう。これからもよろしくお願いしますね。」
みくるさんは、まるでこの世の汚いことを何も知らない幼子の様な笑顔をみせて一樹とともに部屋を後にした。
彼女は、とてもいい人だった。
俺が生まれた場所には戻れないと知ると、彼女は惜しげもなく透き通った涙を流してくれた。
一樹と同い年で、幼馴染の様な関係。王子と姫。美男美女。
誰がどう見てもお似合いで、俺が入りこむ隙など少しもない。
せめて彼女が性格の悪い女だったら恨むことや憎むこともできたのに。
綺麗な顔と声で笑う彼女に俺が敵うところなんて一つもなかった。
窓の外を見やると、俺と一樹が出会った砂浜に二人は佇んでいて。
涙は流れないで、ただただ悔しかった。俺のこの、運命が。
海の風に吹かれる彼らを俺はただ見つめることしか出来ないことは分かってる。
カーテンを静かに閉めてベッドに横たわると、いつかの波の音が聞こえた気がした。

夢を、みた。
あの砂浜で、俺が一樹に想いを告げる夢。
月の光に照らされた一樹は優しく微笑んで、俺に何か言った。
優しく動く唇ははっきりと覚えているのに、一樹が何を言ったのかは思い出せなかった。
脚がもらえるなら声がなくなることに文句なんかないと思ってたけど、俺は都合がいいやつだな。叶わないならせめて一樹に俺の想いを知ってほしい。
声がもし出たとしても、俺にそんな勇気はないのかもしれないけど。
俺はあのおとぎ話の姫みたいに一人苦しんで最期は泡になるのだろうか。
そうだとしても、今はもう少し一樹の近くに居たい。あの暗い海の底には絶対に帰らない。

「海が好きなんです。」
彼はそういった。海にいいことなんてないのに。でも、俺が地上に逃げてきたように彼もどこか逃げる場所が欲しいのかもしれない。
いくら綺麗な婚約者が居ても、縛られた生活から解放されたいと思っているのかもしれない。
「お前のお思う幸せは待っていないかもしれないぞ。」
魔女が言った言葉を俺は今更噛み締めたのだった。





キョンばっか出てくる(´д`)
王子が出ない\(^o^)/www

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