12星座達の日常

氷の覚醒-reisuke himuro-
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―寒い冬の日、1月

この日は雪が降っていて、既に2センチばかり積もっていた。




この日、氷室冷助は市原外科から依頼を受けて、ある一人の患者のためにしばらくこの病院に戻って来ていた。

昔馴染みの仲間の医者やナース達に白衣を着るよう勧められたが冷助はそれを断固拒否した。
何故かと理由を問うと、彼はただ一言……




「このロングコートを脱ぐわけにはいかないんでね。」




と、こう答えるだけだった。







「それでは先生、娘のことをよろしくお願いします。」

「ええ、わかりました。娘さんは私に任せてください。」




病院内の廊下で冷助の担当する患者の母親と思われる女性に深々と頭を下げられて、冷助もまた律儀に頭を下げる。

お互いがその場を後にして冷助の後ろ姿が見えなくなった瞬間、二人のやり取りを見てた新人ナースや新人のドクター達はひそひそと彼の噂をしていた。



「なんだあいつ…?気味悪いな……」

「“氷室冷助”っていう医者らしいわよ。何でも恋人に先立たれたのをきっかけにしばらくこの病院から姿を消していたみたい。」

「ふーん……。で、肝心の腕の方はどうなんだ?」

「それがあたしにもよくわからないの。でも彼、世界中の病院から信頼を受けてるとかって聞いたわ。」

「本当かぁ?あんなどこの馬の骨かもわからないような医者に患者を任せて大丈夫なのか?」



新人ナースとドクター達が自分の噂をしてるなんて微塵も思わないだろう冷助は、自分の担当する患者が入院してる病室に入ると、その患者のいるベッドまで歩み寄った。



「気分はどうだ?」



そう問いかける彼の前には、6才ぐらいの幼い女の子の姿があった。

ベッドに座っている彼女の手元には、先程まで折っていたと思われる折り紙の鶴や紫陽花などがあった。



「せんせいがきてくれてから、“すずな”、びょうきがでてこなくなったよ。せんせいのおかげだよ。ありがとう。」

「そうか、そいつは良かった。」



冷助の担当する患者は“鈴奈(すずな)”という女の子だ。
若くして白血病で入院している。
今は抗生剤による治療を受けていて、彼女にとっては苦しい日々が続いている。

おかげで女にとっての命である“髪”は、抗生剤の副作用で少しずつ抜け落ちてしまった。
そのため、鈴奈は頭にバンダナを巻いて入院生活を送っている。

傍から見ればあまりにも皮肉で可哀想な程なのだが、どんなに辛いことがあっても彼女は常に笑顔を絶やさないでいた。

そんな彼女の笑顔に、冷助は人間の神秘を感じていた。




「あ、そうだ!これね、せんせいにあげるね。はい!」

「え?あ、ああ…。ありがとう。」




そう言って冷助が受け取ったのは折り紙の鶴だった。
とても丁寧に折られていて、その器用な手付きに冷助はただただ関心していた。



最初、鈴奈を担当する時、冷助は彼女が自分を恐れはしないか不安だった。

この容姿のせいで、今まで周りから気味悪がられ、距離を置かれていたからだ。



だが、彼女は自分を恐れなかった。



冷助にとって、こんなことは初めてだった。
そればかりか、自分が担当した瞬間彼女の方から積極的に寄ってくることが多くなったのだ。

その度に彼女は、自分に、混じり気のない純粋な笑顔を向ける。

その笑顔を見る度に冷助は心の中で強く思うのだ。






何としてでもこの子を助けてやる…!
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