OVER DRIVE
□流川君
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―放課後、屋上―
「何だこいつは?」
「おら小僧こんなとこに寝てんじゃねぇよどけ!」
「うー…」
静かな場所を見つけて1人で寝ていたら、いきなり感じた体の痛み。
まだはっきりしない頭を起こして状況を見て、自分が誰かに蹴られているのだと漸く確認出来た。
「いてぇ…」
「オラさっさと帰らんか小僧!」
眠いまま目をそっちに向ければ上級生らしい奴ら。
「お前か蹴ったのは」
「ぐえ!!」
目の前の奴の腹に一発蹴りを入れれば、横にいた眼鏡が大声で叫ぶ。
「な…!何だてめぇは!おお!?コラァ!!」
「1年10組流川楓だ。何人たりとも俺の眠りを妨げる奴は許さん」
「このガキャ…」
「許さねーのはこっちだ…!!」
「ふっ…こいつにも湘北高の恐ろしさを教える必要がありそうだな」
「……」
「ブッ殺せ!!!」
入学早々何故か分からないが妙なトラブルに巻き込まれ、深く溜息を洩らす。
周りの殺気立ってる奴らは俺を潰す気らしく、一斉に殴りかかってきた。
態度や言葉からしてどんな強い奴かと思えば大した事はなかったらしく、1人ずつ片づけていたら気がつけば屋上に立っているのは俺だけになっていた。
その時。
勢い良く屋上の扉が開かれた。
「ん?」
「何だこりゃあ…堀田は…?」
「…いた」
そこに立っていた5人組は俺が倒した奴らのどれかに視線を落とした。
「お前1人でやったのか…?誰だお前は…!?」
「流川楓」
「ルカワ!?」
「何!ルカワ!?」
「?」
俺の名前を聞いた途端に驚いた様子を見せる。
特に赤い髪の奴の反応の仕方は異常なまでだった。
…何だってんだよ。
「何だお前は。こいつらの仲間か?」
「あぁ!!何だとコラァ!お…俺の名前を教えてやろうかァ!!おぉ!!」
「おいちょっとおちつけよ花道!!」
未だに倒れている奴らを指差して問えば返ってくる過剰な否定。
どうやら仲間ではないらしいが、だとしたら何でこいつは俺の名前を聞いただけでガン飛ばしてくるのやら。
そんな事を考えていたらいきなり掴まれた首元。
「俺は1年の桜木花道だ!!よーく覚えとけ!」
「あ、もう忘れた」
「おおっ!?何だコラァ!!」
「お、おい花道やめとけ!!」
俺の言葉に余計に殺気立った赤い髪が学ランの襟元を力強く揺さぶる。
それに制止をかける黒い髪の奴の後ろでは残りの3人が楽しそうにこの光景を眺めていて、何がしたい奴らなんだと考えていた時だった。
「桜木君やめて!!」
「晴子さん!?」
見覚えのない女が赤い髪を止めた。
いきなり現れたその女を見て態度を変える赤い髪。
女は何やら赤い髪に最低だの見損なっただの言い始め、俺はいよいよ本格的に状況が読めなくなる。
その女も何故か俺の名前を知っていて、頭から流れる血を見て焦ったのか何やら言葉をかけてきた。
それを流していたら突如飛んできた左頬への一撃。
赤い髪が、俺を殴った。
何が何だか分からないまま殴られていい気分なわけがない。
何度も繰り返される頭突きの隙をついて一発殴り返せば一瞬ふらつく相手。
余計に煩く叫びだした赤い髪をそのままにして、屋上を出ようとする。
その時にもまた女に声をかけられたが、俺はほっとけと言って屋上をあとにした。
屋上からの階段を降りている時も止まるどころか酷くなる出血。
意地であの場から立ち去ったが本気で病院行きを覚悟すべきだろうか。
そんな事をうまくまわらない頭で処理しようとしていた時。
「…お?」
「……」
廊下から聞こえてきた声の方を何となく見れば、眠そうに欠伸をしていた女。
血だらけの俺を見て特に焦るでもなく歩く足を止めた。
「…この上は屋上…だよね。…あれ?確か洋平君達が呼び出されたのって屋上…じゃなかったっけ」
「……」
「…て事はあんた堀田先輩とやらの仲間?洋平君達は?」
「…仲間じゃねぇ」
「…え」
「…寝てたら巻き込まれただけだ」
「…嘘!?気の毒過ぎないそれ!」
どうやら後から来た5人組の知り合いらしいその女はそれは災難だったねーと言いながら苦笑いを浮かべる。
血で前が見えなくなってきた俺はそこを通り過ぎようとした。
「待って」
「…んだよ」
「その傷。手当した方がいいって。一緒に保健室行こうよ」
「いらねー。ほっとけ」
「じゃあわざわざ病院行く?保健室に行けばそれで済むかもしれないのに?何もしない処置しないままでいられる軽さの傷じゃないって事ぐらい分かるでしょ。それとも何、キミはそれも分からない程バカなわけ?」
「む…」
「それに。こんな怪我人スルーしたら私の方が後で嫌な気持ちになるの。いいから行くよ!」
「……」
「…よろしい」
正直病院に行かずに済むならそれが一番だと思い、無言で頷く。
それを見た女は満足そうに笑った。
「制服も血で汚れちゃってるね」
「……」
「…つかこんなにやられて平気な顔して立ってられるあんた結構大物ね」
「…コレ見て平気な顔してるお前もだ」
確かに!と言ってから歩きだした女は優しく俺の腕を引いて保健室まで向かった。
何気なく隣を見下ろした時、青いピアスが光っていた。
04-流川君-