独立への戦火

□2章 戦火に吹く疾風
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ピ――っと鳴ってるイグニッション、差し込まれている鍵を回しエンジンを正常にアイドリングさせた。
「それでは、走らせますよ?」
ミロスの問いかけも虚しく、皆は聞いていなかった。

2008/6/11 8:23 シュラウドの町の市場

澄み切った青空の下ではヨーロッパ風の石細工建築物が軒を並べ、小さな町にしては大きな建物群が多いのがシュラウドの特徴だ。大建築物が中心で、外側に民家やアパートが密集し、上空から見ると円を描く様にして連なっている。その外郭の一部では露店がずらずらーっと軒を並べていた。早朝にも関わらず意外にも人が多く、品物も欠品が無い。瑞々しい野菜や果実、新鮮な魚介類等、豊富な食材の露店があった。巨大な布で日差しを遮る屋根を作り、その下にテーブル・椅子を並べるといったベターなレストラン、ファストフード店も数多く存在していた。戦争参加国としては非常に高水準だ。市場では何も食材ばかりが売られているわけではない。衣・食・住、暮らしに必要な物は、ここで全て手に入る様になっていた。
「それにしても、賑わいがあって混んでますね」
始めて見るシュラウドの風景は、『まともな暮らしが出来ている街』と言えばそうなのだが、戦争の生傷がちらほら見え、それでも盛んに商業活動をしている光景にケン少年は驚いていた。
「まあ、ここは別格だな。ちょっとやそっと攻撃食らったぐらいじゃ早々には落ちないよ」
昔を懐かしむ気持ちでカレンが街を見渡しながら答えた。今思えば、シュラウド出身はカレン一人だ。
ミロスはインジア、ラファエレはヴァージニティ、ケンは首都アステルポート、空也は『?』だ。正確には、空也は自分の事を喋ろうとしない。ラファエレに言わせれば「てめぇの事をベラベラ喋らすのは野暮だ」との事。他の基地から腕のある人材が、激戦地のシュラウドへ集まっているのだ。出身は違えど、同じ国に生まれ同じ基地に所属し同じ敵と戦っている。首都を落とされないよう、防波堤になって皆が協力してくれている。しかし、傷が付いている。そう想うとカレンは、涙が出てきた。
「少佐…?」
様子を察したミロスがカレンを呼んだ。感傷に浸っている場合ではないが涙が出てくる。
「…何でもない、ただ…な」
涙を拭い、ハンカチを出して鼻を拭くカレン。
「こんなに良い街なのに、生傷が絶えない。少し腹立たしいんだ……自分の不甲斐なさに…泣いてる場合じゃないのにな」
カレンは少しばかり震えながら答えた。。
「そう思ってるのは少佐だけではないっスよ」
後ろから発せられた声、振り向くと空也だった。
「少佐の気持ちは、みんなと同じ気持ちっスよ。俺だってあちこちの損害見ていて何も思わない訳じゃない。被害が広がる前に止めたいって思う。それに、だからこそ俺達が居るんじゃないかな?同じ決意のみんなで明るい街を守る為に」
いつでも前向きな空也の言葉を聞いたカレンは、やっぱり涙が止まらない。
「ぅぉ…悪化!?」
又も涙を流すカレンを見て、空也はビクッと驚きあたふたしながら呟いた。その驚き様は、手足をバタバタさせ、鳥の物真似の様に「クエックエッ」と言いたそうだ。
「プッ……あはははは」
常人とはとても違う空也の驚き方を見て、お腹を抑えて笑うカレンは、心の底からおかしく爆笑していた。
「……あり?」
笑うカレンを見て、空也はあたふたしたリアクションを止め、振り向いた……クエックエッの姿勢で。
よく見れば、他の三人まで笑っていた。
ミロスが「フッ」と苦笑。ケンはカレンと同じくお腹を抑えて爆笑中。ラファエレはツボにハマって寝転がり、のたうちまわっており、おまけに「ギブギブ」と良いながら、地面をバンバン叩いていた。しかし、これだけでは収まらない程の笑い声が聞こえた空也は、視界をもっと広くパーンしてみた。店の人も、道行く人も、五人を囲む人だかりになって笑っていた。カレンが笑い止まり、周りを見た。大勢の人々が(空也を見て)笑っている。明るく温かい感じがする。元から粋で明るい街だ。空也のリアクションが大勢の人間の心を掴むとは。この反応でカレンはスーっと心が落ち着き軽くなった気がした。
(こんなにも励ましてくれる仲間に支えられて自分は幸せだな)
高慢ではなく本心でそう思ったカレンは、自然と口元が緩くなって微笑した。いつでも冷静な男、精神的にまだ弱い点はあるが熱意だけは他に劣らない男、バカだが前向きに行動する二人の男達を見て、部下が逞しく思えた。
「ぶはははははは…『鬼の目にも涙』を吹き飛ばし『笑い』に変えるとは…クーヤ!オモロぃ…だぁ!!!
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