独立への戦火

□4章 十翼の亡霊(前編)
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銃声と爆音。20mmと30mmの火線の交差。白い尾を引く細長くも破壊力を持った弾頭の矢。火花が散る卑光弾は鋼鉄と摩擦しあって、やがて貫く。地面に穿たれる弾痕は砂煙を放出し地中を抉る。辺りを飽和する硝煙の匂いは、鼻を麻痺させるには十分な強さだった。弾痕を被った物は内部のエネルギーを発散し、爆炎が爆ぜ黒煙を吹き上げ、焚き付ける炎を決して抑える気配は無い。又、ある者は秒単位で複数の弾痕を被って、鮮血が宙を舞いて後方に吹き飛ばされ、転がり肉片と化す。見るも無残なその光景は地獄と呼ぶに相応しく、為す術もなく冥界へ行く骸が血だまりを作りつつ横たわっていた。この地は血で血を抗う修羅場と化していった。

日の沈む夕暮れ、山と空が赤く輝く絶妙の色彩、彩りに照らし出されたその背景に反して、より一層伸びる黒い陰のコントラスト。雲は風にそよがれ流されていく。神秘的な光景ながら現実で居させてくれるのは、人工的な物理法則に基づいて飛ぶ鋼鉄の鳥達だった。鉛の火線を吹き相手を墜とそうとする恐鳥達だ。巣を荒らされて黙ってる鳥はいない。だが荒らした当事者は悠々と飛び、巣の番人達を難なく蹴散らし空を舞う。
それはもうワンサイドゲームであるかのように、この空は異国の鳥に支配されていた。悪魔のように亡霊のような深紅で塗り潰され異形とも言える何枚もの翼を持った姿だった。陽に照らされ地上に伸びる影は、より一層濃くより深く巨大で血に濡れた恐鳥に思われた。
「DC、DC、応答せよ!!こちらインジア航空基地!!只今、不審機に爆撃を受けている。増援を要求す――」
「なんだ!?うわっ、こちらに突っ込んでくる!?」
「ヤバい!!ミサイルが切り離された!!」
スクリーンに映し出されたものだ、と思った者。とっさに死の恐怖を感じて逃げ出す者。無線機にかじりつきながらも、目の前の現実を直視する者。ダメージを想定して机の下に避難する者。祈り捧ぐ者。だが、死の矢が切って落とされた時、それはこの一室が破壊のエネルギーに包まれ無になる、皆がしている事その全てが無意味に感じられ、死のカウントダウンをただただ待つ者。イレギュラーが起きない限りこの室内が炎に包まれることはない。直後、地響きがインジア基地を揺るがし、轟音と共に閃光が爆ぜた。管制塔が火達磨と化し噴き上げる黒煙が毒々しい。
吹き飛ばされた瓦礫が重力の加速度を得て対空砲台の真上に落下する。その衝撃で銃座諸とも破壊され、ひしゃげた瞬間、コンマ数秒遅れて爆発が生じる。格納庫の屋根を突き破ったものや、各部屋を廃墟と化すように小さな瓦礫が窓ガラスを打ち破っていた。管制網を断たれたインジア基地は、情報の混乱で人々が混迷の海へと飲み込まれていく様子が見て取れた。

一方で、迎撃に上がった戦闘機群は、呑気に滑空する獲物目掛けて火線を放つ。だが当たらない。ひらりひらりとヨーとロールで交わされる。調子に乗ってトレースしていると、バレルロールで後ろを取られ被撃墜の憂き目に遭っていた。消化が間に合わず火の玉と化す前に、パイロットはベイルアウト。白い花が空に咲き、地に落ちた友軍機は爆発四散、血煙のように赤い花が開く。鋭い刃の如く折れた前進翼と、3次元推力変更ノズルが可能にする高機動。左右に付設されたロケットブースターが高出力を補うと同時に、その機体に搭乗しているパイロットは機動力を得る為にも使っていた。直線的な機関砲弾を回避するにはそれを使う必要は無い。その代わり母機若しくは赤外線誘導によるミサイルの回避法として使用するのだ。
イヤらしい事この上ない。だが、奥の手を使わせると言うことは、それだけ友軍機が敵を苦しめているといった戦況だ。戦闘機動は身体に負担が掛かる為、パイロットはより疲弊するだろう。しかし、一対多数にも関わらず空に貫く火線を交わし、地上から伸びる毬のような対空砲弾を難なく避ける当たり、腕前はエース級だ。シュラウドのフラッシュ1と良い勝負になりそうだ。が、今は呑気にそんな事を考えている場合じゃない。TFV-31D アクティブ・ピクシーを駆りながら、ジェイク・マクファーソンはより一層気持ちを強めた。考え事して墜とされたんじゃ笑い話にもなりゃしない。敵の1秒後、2秒後の位置を読んで攻撃を加える。機体が一新しアナログから、統合電子機器を積んで強力な機体を得たとは言え、人間が操作しなければ機械という物は動きはしない。レーダーの索敵や火器管制システムが整っているとは言っても、ドッグファイトに陥ればパイロットの腕がものを言う。微妙な空力感覚やこまめな目視確認がより重要なのだ。ついでに言うと、敵が何を企んでいるかも考えなければならない。でないとこちらが墜とされてしまう。
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