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□輪廻転生
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俺が池袋の喧嘩人形と呼ばれていた時代は、もう遠い昔。
俺達が生きた時代はとっくに終わっていた。
つまりはもう、人生に幕が閉じたということだ。



それなのに。
その運命をも否定するかのように。

…どうやら池袋の方は、いつまでたっても俺を逃がすつもりは無いらしい。


俺は、昔の俺とほぼ変わらない『平和島静雄』として生まれ変わった。




そして突然の旧友との出会いをきっかけに、俺の第二の人生は先の見えない運命を迷走することとなる。





































それは本当に突然。
懐かしい声に呼び止められ振り返る。
そこに居たのは紛れもなく、あの闇医者だった岸谷新羅だった。


「嘘、だろ…?」
「え…もしかして静雄、僕のこと覚えてるの?」


新羅ははっきりと俺の事を"静雄"と呼んだ。
期待半分、疑い半分。

だがその疑いも新羅の笑い声に掻き消され、相変わらずの胡散臭さに確信を抱く。
正真正銘、コイツは岸谷新羅だとやっとその存在を受け入れることが出来た。


『…不思議だね、またこうして君と出逢えるなんて』
「あぁ…」


話を聞くと新羅も俺と同じように名前、容姿、更には年齢まで一緒だった。
だからこそ、新羅は俺を見つけられたのだろう。

生まれ変わったとしても、未だ前世の記憶は鮮明に残っている。


『君は今何の仕事しているんだい?』
「相変わらず取り立て屋みたいな仕事してる」
『そう』
「まぁトムさんもヴァローナも居ないけどな…」


もちろん、今の時代には幽も門田達も居ない。
希望など、とうの昔に捨てていた。

今日俺と新羅が出会えたことすら奇跡に近いのだから。


『まさか自分が、昔の自分とほぼ変わらない条件で生まれ変わるとは流石に思ってもみなかったけどね』
「はっ…全くだ」
『君に声を掛けた時も、まさか君まで僕みたいに記憶が残ってるとは思わなかったからさ…正直な話、凄く嬉しかったよ』
「俺達以外には…居ないだろ、きっと」
『そうだね…』


疑問の中に含まれた期待は、簡単に否定されてしまった。

24年間生きてきて、今日初めて前世での知り合いに会えた。
それは新羅も俺も同じだったらしい。

昔と今は違う世界なのだ、と改めて思い知らされた。


「…セルティは?」


ふと、前世でよく話し相手になってくれた友人を思い出す。
新羅にとっては一番会いたい相手だろう。


『分からない。まだ池袋に居るかすら確認できてない。池袋も大分変わっちゃったからね…』
「…まだ好きなのか?」
『当たり前だろう?』
「流石だな」
『ありがとう』


相変わらずの反応に、思わず俺も笑みが溢れた。
セルティなら、もしかしたらまだ会える可能性はあるのかもしれない。
それだけでも凄く嬉しくなった。


「お前、仕事は?」
『折角記憶も残っているからね、医者になったよ。ちゃんと今度は資格も取った』
「立派じゃねーか」
『うん、でももういいんだ。お金も大分貯まったし、セルティを探しに行こうと思ってる』
「…何処へ?」
『分からない…けどまだ日本に居ると思うんだきっと』


俺も、そんな気がした。
出来ることならば俺も久しぶりに会って話がしたい。


『…どうしても見つからなかったら、その時はアイルランドに飛ぶよ』
「見つかるといいな」
『僕のことより君は?』
「俺?」
『何か前世でやり残したこと、あるんじゃないの?』


その言葉が深く胸に刺さる。


「…あったとしても、今の時代じゃ意味が無いんだよな」
『……"彼"は居ないのかな。今の時代に』
「さぁ、な…」


新羅は知っていた。
その言葉の意味を。



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