もう此処に戻ることはないと、最低限の荷物を纏め、部屋を飛び出した。


















ラブレター
(六臂←月島)


















始発前の駅は閑散としていて、特に平日ということもあってか人の気配は感じられない。
朝日は既に昇り始めていたがその高さはまだ低く、明るく照らすのはもう少し時間が掛かるだろう。



さて、どこへ行こうか。
一枚の紙幣と引き換えに買った切符では、何処に辿り着くかは分からない。
でも、考え無しに買った切符の行き先は本当はどうでも良くて、此処から離れられればもうそれだけで良かった。


「もう戻ってこないし、な…」


固く決めていた。
もうあの場所へは帰らないと。

電車を待つ間、鞄から一通の手紙を取り出す。
初めて彼から貰った手紙だった。


「勝手に何処へ行くつもり?」
「……六臂」


視線の少し先にその姿を捉え、咄嗟に手にしていた手紙を隠す。


「仮にも恋人に無断で家を飛び出すなんて、どうかしてるよ」
「…"元"恋人だろ?それにちゃんと書き置きもした」
「いきなりさよなら、なんて書かれて納得出来るとでも?」
「それは…お前の問題だ」


その後暫くはどちらも口を開くことはなく、俺はただひたすら電車を待った。





俺達は"元"恋人同士だった。
ある理由が原因で俺は六臂に別れを告げ、六臂も納得したはずだった。

一緒にはもう住めない。
だから家を飛び出した。

それなのに六臂は今更追いかけてきて、もう訳が分からない。


「…来た」
「……うん」


電車がホームへと姿を現す。
ドアが開かれ脇目もせず車内へ踏み込むと、同時に手首を掴まれた。


「…もう行くから」


まだ発車までは時間があるが、早くこの手は振り払うべきだと無意識に脳が反応した。


「…あのね、君の部屋から昔俺が渡した手紙が無くなってたんだけど、もしかして今持ってたりする?」
「勝手に…」
「ねぇ、答えてよ」
「……」
「…答えるまで放さないから」


最後まで我儘な奴だなと思ったが、あえて口には出さずその問いに答えた。


「持ってるよ」
「どうして?」
「……」
「ねぇ、何で?俺の事嫌いなんじゃないの?」


どうして?何で?
それはこっちの台詞だと叫んでやりたかった。


「…六臂、もう電車出るから」
「待ってよ、まだ話が…」
「もういいって!!」
「ツキ、ちゃん…?」
「一生幸せにするって言ったくせに…っ!…あの手紙が夢みたいだって喜んでた昔の俺はっ…、俺、馬鹿みたいだ…」


鞄の奥へと隠した手紙は昔六臂から貰ったもので、そこには愛の言葉と「俺が一生幸せにする」というキザな台詞が書かれていた。
単純な俺は六臂となら絶対に幸せになれると、この時は信じて疑わなかった。
だから今裏切られたような実感は六臂のどんな言葉でも拭えなくて、もうこれ以上は本当に駄目なのだと悟っていた。


涙が後から後から流れてきて止まらない。
六臂の手はいつの間にか離れていて、掴まれていた手の袖で必死に涙を拭う。



ホームには出発を告げるアナウンスが流れ、静かに流れていた音楽もそろそろ終わりを迎える。


「これ…、使って?」


差し出されたハンカチを断ろうにも無理矢理握らされ、別れの挨拶も出来ないまま無情にも扉は閉じてしまう。


「さよなら…」


六臂からの返事はない。
代わりに哀しげな顔でドアに触れてきて、俺はそれを拒むように背中を向けて声を殺して泣きながら、その場に座り込んだ。


電車は時間通りに動き出す。


振り返った時にはもう既に遅く、視線の先に六臂は映らない。

どうすれば良かったのか。
これで本当に良かったのか。

そんな想いが頭を巡る。


握り締めた手の中で、微かな音に気付いた。
六臂から渡されたハンカチを捲ると、クシャクシャになった一枚の紙に書かれていた言葉。


『必ず迎えに行く』


間違いなくそれは六臂の字で、その手紙に俺は堪えきれず声を出して泣き続けた。





これが六臂から貰った、二度目のラブレター。



END






続く、かも…( ̄▽ ̄;)?
一応ハッピーエンドなつもりですよ!(ゆくゆくは)

つっきーは小道具が多いので、今回上手く使わせて貰いましたv
サスペンダー可愛いよね!(使ってない)

話の中にあった"別れる理由"は特に考えてません。
無難なところろっぴーの浮気かなぁと。
でももしかしたらろっぴーがつっきーのマフラーを勝手に洗って、乾燥機かけたら縮んじゃったとかそんなケンカが原因かも(笑)
そんな二人はほのぼの癒し系担当。

今回初の六月でしたーv




拍手ありがとうございました!!コメントありましたら↓からどうぞvV



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ