企画短編3

□せつな味
1ページ/1ページ

午後の教室。
穏やかな陽射しと、心地良い秋風が眠気を誘う窓際の席。
グラウンドから聞こえて来る準備体操の号令さえも、子守歌みたいで…



「おい!おーい」


夢の中への扉を開ける直前に聞こえて来た声に、はっと目を覚ませば、ひらひらとプリントが舞っていた。


「テスト範囲だってよ。いらねーなら捨てるぞ」

「いるに決まってるでしょ!」


目の前のプリントを慌てて奪い取ると、いつもながらのしたり顔。


「ったく。器用なヤツだよな。机に肘付いたまま、窓の外見てるみてーに寝てんだから、誰もお前が寝てる事気付いてねーし」


あんたみたいに机に突っ伏して寝るなんて大胆な事するよりマシ。

なんて反論したい気はあるけれど、やめた。

だって、なんか馬鹿らしい。




二学期始まってすぐの席替え。
私は近年稀に見る大ラッキーを手に入れた。

誰もが狙う窓際の一番後ろの席。
しかも前の席はシカマルというオマケ付き。

ここから少女漫画みたいな恋の始まりを期待したいところだけど、世の中そんなに甘くない。

一年からずっと同じクラスのシカマルと、今みたいに話せるようになったのは二年の時から。
あの時も二学期の席替えでこの並びだった。


私の密かな恋が始まったのもその時から。

誰にも言ってないけどね。





「シカマルー!」


教室の入り口でシカマルに手を振る綺麗な女の子。


「おぅ。今行く」


彼女に向かい軽く手を振るシカマルの姿に、胸が締め付けられる。


好きだと気付いた時にはもう、シカマルの隣には幼なじみの彼女がいた。

明るくて綺麗な彼女が…


始まった時に終わりが見えていた恋。


席を立ち、彼女が待つ教室の入り口に歩くシカマルの背中を見てるだけで苦しくなる。


こんなに近くにいるのに、こんなに会話してるのに私の気持ちは

届かない
届くワケない
届かせるなんて出来ない

そんな気持ちなら、いっそ消してしまいたい。

そう思って何度も諦めようとしたのに、気持ちが言う事を聞いてくれなくて、また好きになっていく。



二人の姿を見てるのが辛くて、ぼやけた私の視界のフレームから二人を外した。

ごまかすように見た窓の外の空が青く滲んでる。


こんなにも晴れてるのに、心は今にも雨が降り出しそう。


「おい!」


大声に視線を教室に戻せば、ポケットから何かを取り出し私に放り投げるシカマル。

反射的にそれをキャッチする私。

受け取った手には、少ししわくちゃになったレモン色の包み。


「それ舐めて早く目ぇ覚ませよ」

「こんなのなくてもちゃんと目覚めてるし」

「まぁいいから食べろって。すげー効くから」


ニヤリと片方の口角だけ上げるいつもの笑いを見せると、すぐ背中を向けて彼女の隣へと歩いて行く。

二人の姿が見えなってから、自然と出る溜め息。

もう何回こんな溜め息を吐いただろう。


シカマルから貰った小さな包みを開ければ、丸いレモン色の飴玉。

飴玉と一緒にうだうだしてる気持ちも口の中に放り込んだ。
途端に広がる甘酸っぱさに思わず顔をしかめてしまう。

甘酸っぱい飴玉と甘酸っぱい私の気持ち。

なんだか笑える。


どうせならこの気持ちも、飴玉と一緒に溶けてなくなればいいのに。

廊下から聞こえて来る二人を冷やかす友達の声にまた、胸が苦しくなった。


最初から分かってたはずなのに

この恋が切なくなるって…


見慣れた教室の景色が、だんだんと霞んでく。



(涙がほろり零れたのはアイツに貰った飴玉が酸っぱ過ぎたから)


end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ