企画短編

□大きな手
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オレの頭を撫でるように優しく包む大きな手。煙草の匂いのする大きな手。

ガキだったオレは、その手の温もりに安心してた。
顔では、ぶすくれてたけどな…


少しずつ大人に近付き、考え過ぎて動き出す事を躊躇っているオレを今度はその大きな手が背中を押してくれた。




慰霊碑の前で手を合わせていると、いつもあの手の温もりを思い出す。

持っていた煙草に火を点けようとライターを胸ポケットから取り出した。

シュッと音を立て勢いよく点いた火に煙草を近付けた途端、悪戯に吹き出した風。
ライターの火はゆらゆら揺れながら消えていった。



『お前にはまだはえーだろ』


耳元を通り過ぎる風がオレに告げる。

アスマか…

吸い損なった煙草を慰霊碑の前に供えると、風はより一層強く吹く。


「これも置いてけってか」


胸ポケットの中から煙草とライターを出し、それもまた慰霊碑の前に。
どこからかアスマの笑い声が聞こえてくるようだった。

こんな事すんのも今年までだからな。
来年には、この慰霊碑の前で思う存分吸ってやるから覚えとけよ。


その場所を立ち去る前にオレはもう一度慰霊碑に手を合わせる。


なあ、アスマ…

オレはまた一つあんたの歳に近づいちまったよ

オレはあんたみたいな忍になりてーと思ってる

あんたみたいに大きくて温かい手をした大人に…

なあ、オレは少しずつあんたに近づけてるか?

オレはカッコいい大人に近付いてるか?



大きな

じっと自分の手の平を見れば、あの大きな手を思い出す。

大きくて温かかったアスマの手を…

オレはまだまだだよな…

あんたの歳に追いついた時には肩を並べる忍になってるから


待ってろよ




風が吹く
それはアスマの笑い声によく似た風




end

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