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□チョコ+ホイップクリーム+メープルシロップ<二人の愛
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「やっぱり私が作るよ」
私は腰掛けていたソファーから立ち上がり、甘い香りが漂うキッチンへと向かった。
年に一度のバレンタインデー。大好きな人に思いを告げる日。だったっけ?
ここ何年もバレンタインデーなんて無縁だった私。
でも今年は違う。
大好きな人がいる。
しかも、その大好きな人と両思いで付き合っちゃったりしてるもんだから張り切って手作りのチョコなんか渡そうと考えてた訳なんだけど…
「チョコレート作るんですか?それだったら私が作りますよ」
「え…でも」
「こういうのは私の方が得意ですからね」
そう言って買って来た材料ごとキッチンを占拠されてしまった。
鬼鮫ったら今日が何の日か分かってんのかな?
キッチンからの甘い香りに居てもたってもいられなくなった私は、ついに立ち上がり鬼鮫の元へと向かった。
「どうしたんですか?もしかして待ちきれなくなったんですか?」
キッチンの入り口に立った私に気付いた鬼鮫は楽しそうに私に話し掛けた。
「違うって。今日は私が作らないと意味ないんだよ」
「意味がない?それはどうしてですか?」
「どうしてって…」
私の予想は見事にビンゴ!
鬼鮫は今日が何の日か全く気付いてないみたい。
「今日は2月14日バレンタインデーでしょ。大好きな人にチョコを渡して思いを伝える日だよ」
鬼鮫のつぶらな目がパッと見開いた。
「そうでしたか!だから街中であんなにチョコだのハートだのが飛び交ってたんですね」
街中でチョコやハートが飛び交うってのはやや大袈裟だと思うけど…
「すいません。私そういうイベント事には疎くて」
大きな体を少しすぼめて申し訳なさそうに謝る鬼鮫はいつにも増して可愛らしい。
大人の男の人に可愛らしいなんて思うのは、失礼なのかもしれないけれど…
私鬼鮫のそういう可愛らしいところが大好きなんだからしようがない。
「だったら尚更ですよ」
「え?」
「大好きな人にチョコを渡して思いを伝える日ならば、尚更私がチョコを作らなければ」
止めていた手を再び忙しなく動かし始めた鬼鮫の胸に抱かれているボウルの中には、白くフワフワに泡立てられた生クリーム。
私が大好きだって、遠まわしに言ってる?
恥ずかしがり屋の鬼鮫の口から「好き」なんて甘い言葉が聞かれる事は滅多にない。
でも、毎日の鬼鮫の行動や話す言葉の端々からそれを感じるのはきっと私の気のせいなんかじゃないはず。
私も鬼鮫に負けず劣らず恥ずかしがり屋なもんで「好き」って言うのは照れくさい。
だからこそ今日は!って思ってたんだけどね…
「ねぇ、やっぱり私が作るよ。バレンタインは女の子が男の子にチョコ渡さないと…」
「そんなルールはどうせどこかのお菓子メーカーが考えた事でしょう?どっちが渡すかなんて関係ありませんよ」
「う…それはそうだけど」
どうやってもキッチンは明け渡されそうもない。
だったらもうこうするしかないな。
私はエプロンを着け鬼鮫の隣に並んだ。
「どうしたんですか?出来るまで座ってていいんですよ」
「私も一緒に作るよ。だって…」
「だって?」
首を傾げ私の顔を見る鬼鮫。
「だって私、鬼鮫が大好きだから」
キッチンに並ぶ私と鬼鮫の顔はチョコも溶けそうなくらいに真っ赤になった。
Happy Sweet Valentine
テーブルの上に並んだハート。
ひとつは綺麗に形の整ったチョコレートケーキ。
もうひとつは歪なチョコレート。
「私不器用だな…」
「そんな事ありませんよ。上出来です」
チョコを一口食べた鬼鮫は満面の笑みで「美味しい!」と言ってくれた。
チョコ+ホイップクリーム+メープルシロップ<二人の愛
どんな甘いお菓子だって私と鬼鮫の過ごす甘い日々には適わない
end
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