企画短編2
□嫌い…だけど、好き
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彼氏いない歴=年齢
要するに、生まれて今まで彼氏がいない私。
友達に言わせれば「あんたは理想像が高過ぎる」とか。
そんな私の理想の彼氏は、優しくて、頭が良くて、そこそこイケメンで、つまり今私の隣に座ってるヤツとは正反対の人。
「お前、さっきから何ブツブツ言ってんだよ。気持ち悪ぃな」
「はぁ?気持ち悪いですって?私だってあんたの隣にいるのが気持ち悪いんですけど!」
「ガミガミとうるせー女。それよか、あと何分だよ」
「さっきからまだ一分も経ってません」
「はぁ…また遅刻かよ」
溜め息吐きたいのはこっちの方だっての。
いつも通りに家を出ただけなのに、何でこんな目に合わなきゃいけないのよ。
明日は休みだ、なんて浮かれながら勢いよく家を出た私の前に突っ込んで来た自転車。
運転していたのは、もちろんキバ。
危うく正面衝突のところを間一髪、お互いがお互いを上手い事避けたつもりが、私はコケて膝を負傷(かすり傷程度)そしてキバは
「あーあ、また母ちゃんにどやされるな」
バス停の駐輪場に止めたボロボロの自転車を恨めしそうに眺めながら、ベンチの上で膝を抱えて座るキバは叱られた子犬みたいだった。
私を避けて自転車ごと壁に激突し、幸い壁はどうってことなかったけれど(私ん家の壁だし)、自転車の前輪部分は見事にボコボコで運転不可能。
それで今、二人してバス待ち中。
シュンとなっているキバの姿を見ると、なんだか凄い罪悪感に苛まれてしまう。
私がちゃんと左右確認してれば、こんな事にはならなかった訳だし。
やっぱり帰りに家まで行って、事情説明した方がいいよね。
噂によると、キバのお母さんかなり怖いらしいから。
「あれ?なんでお前までシュンとなってんだよ。もしかして、責任感じてんのか?」
子犬みたいだったキバが一転、ニヤニヤしながら私を見ていた。
前言撤回。
こんなヤツに申し訳ないなんて思っていた、ちょっと前の自分を消し去ってしまいたい。
「悪いなんて思う訳ないじゃない!」
「うわ!少しくらいは責任感じろよ。お前が飛び出して来たから、オレのチャリあんなになったんだからよ」
「そんなの上手く避けられなかったあんたが悪いんでしょ。運動神経がいいだけが取り得なんだから、あれくらい軽々と避けなさいよ」
思ってもないキツい言葉が、キバが相手だとついつい出てしまう。
「普通は、ごめんねとか怪我してない?とか言うもんだろ。ホント可愛げねーよな」
可愛げがない女だって、自分でも分かってる。
いつも言われ慣れてるはずのキバの嫌みが、なぜか今日は針でチクチク刺されているみたいに胸が痛い。
ヤバい…泣きそう。
「でもさ…」
俯きかけた顔をキバに向けると、眩しいくらいの笑顔が私を見ていた。
「そういう可愛げがないとこがオレは好きなんだけど」
不意打ちの「好き」に、チクチク痛んでいた胸がキュンとなった。
八重歯を見せて笑う顔が、余計に私の胸をキュンキュンさせる。
その笑顔は反則だよ。
「なーんで黙ってんだよ」
そんな事言われたって、何て言えばいいのか分からないし、ましてやどんな顔すればいいのかさえ分からない。
目を合わせるのが恥ずかしくて、私は思わず視線を逸らした。
「オレそんなに嫌われてんのか…」
視界の端っこに肩を落とすキバの姿が見えた。
「べ、別に嫌いじゃないし…」
「マジか?!」
ベンチに飛び乗り、嬉しそうな顔でこっちを見るキバはやっぱり犬みたいで笑える。
「じゃーさ、オレの事好きか?」
嫌いか嫌いじゃないかと聞かれたら、嫌いではない。
だけど、好きかと聞かれたら…
なんだかんだ言って、いつも近くにいる男子ってキバだけだったりする。
別に他の男子と話さない訳じゃないけど、楽に話せるのってキバくらい。
これが好きってこと?
いや!有り得ない!
だって、コイツって私の理想に掠ってもないよ。
頭の中でいろんな思いを巡らせている間、キバはしつこいくらいに私の顔を覗き込んで来る。
「なー!どうなんだよ?なーって」
「もう!うるさい!好きよ!」
怒った拍子に口から飛び出た言葉。
「やっぱりな。オレもそうだと思ってたんだよ」
さっきまで不安そうにしてた癖に、調子いい事言ってる。
気安く肩に手なんか回して来てやっぱりコイツ、ウザい。
「ホントは他のヤツ好きだったらどうしようか、内心ヒヤヒヤしてたんだけどな」
でも、やっぱりこういうとこ好き…かも。
ガサツでバカでデリカシーなんて微塵もなくて、理想の彼氏とは程遠いけど、好きになったらそんなのきっと関係ないんだよね。
嫌い…だけど、好き
矛盾してるけど、こんな恋の始まりもアリだと思う。
「よし!じゃあ、記念に今からどこか行こうぜ」
「は?学校は?」
「こんな日に学校なんか行ってられねーだろ」
これから先が思いやられる…
end