企画短編2
□ぽんぽんぽん
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淋しい時や悲しい時は、ポケットを叩いてご覧なさい
ポケットの隅に隠れてる幸せが飛び出して来ますから
そう私に教えてくれたのは、鬼鮫という男だった。
私の生まれた里は年中深い霧に包まれていた。
子供の頃から人を斬る事を習慣づけられ、大人も子供もみんな冷たい目をしていた。
血生臭い里。
私は自分の生まれたこの里が大嫌いだった。
子供の頃から気が弱かった私。
普通の世界では、良く言えば優しい子とも言えるのだけれど、生憎私の生まれた里では優しいなんて誉め言葉なんかなかった。
弱者か強者か。
死ぬか生きるか。
殺すか殺されるか。
二つに一つの忍の世界。
先祖から代々忍の世界に身を置いて来た我が家では、それ以外の生き方を選ぶ権利はなかった。
気の弱い本当の自分を押し殺し生き続ける事に疑問を持ち続けていた。
そんな私が唯一素の自分に戻れたのは、霧に包まれた里よりも更に霧深い森。
忘れもしない。
あれはアカデミー卒業の日。
昨日まで共に学んで来た仲間達を次々と殺めて決めた卒業。
限界だった。
逃げ出す事も出来ず、この場所で泣き叫び、里を恨み大人達を恨み、従うだけの自分を蔑まずにはいられなかった。
「おや、こんな場所に子供一人で来るなんて、殺されにでも来たんですか?」
嗚咽を漏らしながら声のする背後を振り向けば、大きな男が喉を鳴らして笑っていた。
ゾクリ。
背筋が凍りついた。
他の大人達と同じ冷たい…いや、それ以上に冷たい冷酷な目。
体中から誰も寄せ付けないオーラが漂っていた。
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