企画短編2

□その瞳に映るもの
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さっきから一度も振り返らない背中を追い掛け、早足で歩くけれどなかなか追い付かない。

いつもならここら辺で振り返って「おせーよ」って意地悪そうに笑うくせに、今日はそんな気配さえ見せてくれない。


――…もしかして、怒ってる?

さっきまでの自分の行動を頭の中でリプレイして、シカマルが怒る理由を探してみる。

思い当たるのはひとつだけ。

はっと気付けば遠ざかって行くシカマルの背中。
必死に追い付こうと早歩きが次第に駆け足に、駆け足はとうとう本格的な走りに。


「待って」


やっと掴んだシャツを力一杯引っ張って、やっとシカマルは足を止めてくれた。


「なんだよ?」

「怒ってんの?」


振り返った視線は暑さも忘れるくらいに冷たくて、思わず掴んでいたシャツを離してしまった。


「別に怒ってねーよ」

「ウソ。キバと話してたから怒ってるんでしょ?」

「んな事で怒んねーよ」


視線を外すように、そっぽを向いてまた歩き出したシカマルの前に私は立ちはだかった。


「じゃあ、ちゃんと目見て言ってよ。怒ってないって」


いつもクールなシカマルの拗ねた様子が可愛くて、ちょっとだけ苛めたくなってしまう。

最近部活ばっかりのシカマルに、少しだけでも私の寂しい気持ち分かって欲しくて…つい出来心。

の、つもりが

がっしり肩を掴まれ、見つめられるとこっちが恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。


「なんでお前が目逸らすんだよ」

「…だって、そんなに見られたら恥ずかしいって」

「お前が目見ろって言ったんだろーが」

「そりゃそうだけど…」

「ほら、こっち見ろよ」


強引に顔を正面に固定され、否が応でも視線がぶつかる。
やっぱり恥ずかしくて節目がちになる私。

そんな私にシカマルは呆れ顔。


「あのなー、そんなに恥ずかしいんなら言うなよ」

「…だって」

「だって、なんだよ」

「最近シカマル部活ばっかりで寂しかったから…」

「お前は構ってちゃんかよ」

「ひどっ…」


睨むように見たシカマルの瞳には、泣きそうになる私が映っていた。
そんな私の頭をシカマルがくしゃりと撫でる。


「ばーか。ま、とりあえず目閉じてみろ」

「え?」

「いーから閉じろ」


シカマルはいつもズルい。
肝心な事は何も言わないで、私に命令する。


でも、それに疑うことなく従ってしまう私がいる。

言われるままに目を閉じてから、一秒、二秒…

何が起こるか分からないまま待っているのは、とてつもなく長く感じた。

その瞬間が来るまでは…

唇に触れた温もりが、シカマルの唇だと気付くのにそれほど時間はかからなかった。

体中が熱くなって行く。
触れた唇が私を安心させる。


唇が離れても、体中は熱を帯びたままキスの余韻を残していた。

閉じていた目を恐る恐るそっと開いてみる。

弓道場での的を見つめる険しい眼差しとは違う眼差しで、私を見つめるシカマルがいた。

優しさと愛おしさを含んだ眼差し。
その瞳に映っているのは、他でもない私。

シカマルはずっとこんな風に私を見ていてくれてたんだ…よね。


そして気付いた。
今まで勝手に寂しがっていた自分がバカだったって事。


シカマルの瞳に映っている自分が、恥ずかしいけれど嬉しくて、もう少しだけこのままでいたくて、じっと見つめていた。


「あんま見んなよ」

「いいじゃん。もうちょっとだけ」

「ばーか。帰るぞ」


逸れた視線に寂しさを感じながらも、体だけは離れないようにがっしり腕を組んでやった。


「引っ付くなよ。あちーだろ」

「ホントは嬉しいくせに」

「んなワケねーだろ」



その瞳に映るもの
(こんな眼差しで見つめられる幸せ者は、世界中できっと私だけ)



end
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