企画短編2
□その瞳に映るもの
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夕日色に染まり始めた弓道場。
その場所に一人残り、的を見つめるシカマルの姿を見つけた。
ピンと伸びた背筋、袖から覗く弓を引く筋肉質な腕、真っ直ぐに的を見つめる鋭い目。
しなる弓から放たれた矢は、直線を描き的に命中する。
声を上げたいけれど、シカマルの集中力を削ぎそうで、私は無言で小さくガッツポーズした。
「何してんだよ」
掛けられた声に驚き、両手をこっそりと引っ込める私。
「えっと…たまたま通りかかったらシカマルが見えて…。ごめん!練習の邪魔だよね。じゃ、頑張って」
ヤバい。
あの眉間の皺は絶対怒ってる。
めちゃくちゃ集中してたの邪魔したんだから当然だよね。
「もう帰んのか?」
「え?うん。そうだけど」
「ちょっと待ってろ。オレも、もう帰る」
てっきり怒らせたと思っていたから拍子抜けした。と同時に嬉しさがじわじわ込み上げて来た。
最近シカマルは、一人居残り練習の毎日だったから、一緒に帰るなんて久しぶり。
話したい事が沢山あり過ぎて何から話そうかな。
なんて考えてたら、ついつい顔がにやけてしまう。
「何一人でニヤニヤしてんだよ。気持ちわりー」
飛んで来たボールをとっさにキャッチすれば、その向こうにはクラスメートのキバがいた。
「ニヤニヤなんかしてないわよ」
「してたよ。あ!それはいつもか」
「相変わらず失礼なヤツ」
思い切り投げ返したボールをキバは、膝で一回バウンドさせて見事にキャッチした。
「それはお互い様だろ。それより、こんなとこで何してんだよ。なんて聞く必要ねーか。どうせシカちゃん待ちだろ?」
「そうですけど何か?」
「だったらオレも一緒に帰ろうかな」
「え?」
せっかく二人で帰れると思ってたのに。
心の声が顔に出たらしく、キバは私の顔を見て豪快に吹き出した。
「そんなに露骨に嫌そうな顔にしなくてもいーだろ」
「べっ、別に嫌そうな顔なんかしてないし…」
「してたって」
そっぽを向いた私をキバがニヤニヤしながら見ている。
「こっち見ないでよ!」
振り上げた拳を楽々受け止めたのはキバじゃなかった。
「何二人でじゃれあってんだよ」
「シカちゃん、おせーよ。ちょっと遊ばせてもらったぜ」
「勝手にコイツで遊ぶんじゃねーよ」
ちょ、二人して人の事おもちゃ扱いですか?
「わりぃ、わりぃ。じゃ、帰るな。後は二人でごゆっくり」
「…もう」
口を尖らしてキバの背中を睨んだいる私の肩をひとつ叩くと
「帰るぞ」
シカマルは先を歩き始めた。
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