novel

□短編
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俺は並盛中1年の山本武。

…いや。

今となっては並盛中1年だった山本武と言った方が正しいのかもしれない。


何故なら。

俺はもうこの世の人間ではないから。


ちなみに俺の体は周りから見えないように真っ青なビニールシートで隠され、担架でどこかに運ばれていくところだ。

死後の世界なんてものは信じていなかったけど、こうして幽霊になって泣いてる同級生や自分の体を見下ろしているのだから信じるしかなかった。


「山本武、学校の屋上から飛び降り死亡。享年13歳。ちょっと早すぎるね」


成仏するにはどうしたらいいのかとか、自分の通夜と葬式くらい見ていくべきかと悩んでいると頭の上からそんな声がした。


「大好きな野球でスランプになり、脱スランプ目指して練習しまくって骨折。野球の神様に見放されては生きていけないと、引き止める生徒達の目の前で飛び降りた。あの生徒達、当分立ち直れないね」


声の主はペラペラと饒舌に語り、よく見てみれば俺と同じくらいの年頃の男だった。

しかも刀を腰に差していて、上下黒の和服姿。

…銃刀法違反とかで逮捕されんじゃね?

飛び降りる前に黒いのがチラチラ見えてたけど、それってコイツだったのか?


「ねえ、聞いてる?ここまで育ててくれた親とか、どうにかして思いとどまらせようとした友達に悪かったなって思ってる?」
「…一応は。でも後悔はしてねーよ」
「…そう。成仏前にやり残した事はない?」
「いや…別にないけど」
「そっか。じゃあ、おでこ出してくれる?」


そう言って、男は腰の刀を鞘から抜いた。

まさか俺、斬られる?


「斬ったりしないから、そんなあからさまに怖がらないでよ。おでこに判子押すだけだから。この刀の柄は判子になってるんだ」


男は柄をトントンと叩くと俺と向かい合って座り、俺の額に柄を近付けてきた。


「押すとどうなんの?」
「尸魂界の流魂街に行けるよ。簡単に言うとあの世だね」
「アンタ…どうしてそんな事が出来るんだ?人間じゃねーの?」
「俺は死神。この並盛町で死んだ人を尸魂界に送ったり、悪霊になった人を止めるのが仕事」


死神ってこんな古風な格好してるのか…。

てっきりデカい鎌持ってるもんだとばかり思ってた。


「俺、天国行き?地獄行き?」
「犯罪をやらかしてないから、地獄には行かない。でも流魂街は治安のいいとこと悪いとこの差が激しいからね。第八十地区なんて最悪だよ。略奪や殺しも日常茶飯事だし」
「うわっ!!そんなとこ絶対行きたくないのな…」


死神はクスクス笑い、治安がいい地区に行けるといいねと言った。

行き先は自分で選べるわけじゃないのか…。

ていうか、幽霊が死んだらどうなるんだろう。

ああ…何だか成仏したくなくなってきた。


「おしゃべりはこのくらいにしようか。そろそろ魂葬させてね」
「なあ、死神さんの名前は?その流魂街ってとこに行く前に教えてくれよ」
「沢田綱吉だよ。あだ名はツナ。それじゃあね、山本武くん」


死神は俺の額にポンと判を押し、俺は彼に見送られて尸魂界へと旅立った。




あの屋上ダイブから20年は経っただろうか。

俺はつい先日、真央霊術院という死神養成学校を結構優秀な成績で卒業した。

そして、今日から十番隊の一番下っ端として働く事が決定した。

…別に死神になりたかったわけじゃないけれど、俺が送られた戌吊地区はかなり治安が悪かった。

そこから逃れるには転生するか真央霊術院に入って死神になるしかなくて、幸い霊力がそこそこ高い事がわかった俺は即座に死神になる道を選んでいた。

あのまま戌吊にいたら転生前に死にそうだったし。


「(あのツナっていう死神はまだ並盛にいるのかな?それとも瀞霊廷に帰ってきてんのか?)」
「学校の屋上から飛び降りて死んだ、享年13歳の山本武くん。久しぶり」


瀞霊廷の一室で十番隊からの迎えの死神を待っていた俺の前に現れたのは、あの沢田綱吉だった。

今まさに考えていた相手の登場に俺は椅子から落ちそうになってしまった。


「…ツナだ」
「俺のあだ名覚えてたの?何かちょっと嬉しいな。でも仕事中はそう呼ぶのは禁止。俺の方が先輩なんだし、新人にあだ名で呼ばれると他の後輩の前で示しがつかないし」
「ツナはここに何しに?」
「山本を迎えに来たんだよ。俺、十番隊なんだ」


霊術院で仲がよかった同期生達は別の隊に配属になったので、たった1度会っただけの相手でも同じ隊に顔見知りがいるのはかなりありがたかった。


「でもまさか、尸魂界に送った相手を出迎える事になるとはね。こんな事もあるんだね」


俺はこの約20年で少しは背が伸びたのにツナはほとんど変わっていない気がした。

そのせいか俺を見上げて笑うツナがスゴく可愛くて、俺はついつい頭を撫でてしまった。


「ちょっと山本!!何すんだよ!!」
「いや…。何かツナ、小さくて可愛いなって」
「男に可愛いとか言わないでくれる?あと、ツナって呼ばないでよ」


こんな事ならあだ名を教えるんじゃなかったとボヤくツナを見ながら、ツナがいるなら死神としてどうにかやっていける気がした。


END


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