novel

□過去拍手
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「はあ…」


授業中にも関わらず、俺はため息をついた。

ため息の原因は目の前の全ページ真っ白な分厚い本。

本の裏表紙には油性ペンで「獄寺隼人」と下手くそな字で書いてある。

4年前、この本を親父から渡された時に俺自身が書いた俺の名前だ。


「全ページ埋めんのに何年かかんだよ…」


俺の実家は代々「UMAハンター」なるものをやっている。

中にはもっと一般的な職業を選んだ先祖もいたらしいが、親父はUMAハンターとして生きる道を選んだ。

10歳の時、俺にもハンターになるかどうかの選択肢が突きつけられた。

UMAに興味津々だった俺は二つ返事でハンターになると宣言し、親父からこの本を与えられたというわけだ。


「…あれからもう4年だ。いい加減に1ページくらい埋めねーと…」


俺達の仕事は人間の振りをして、人間社会にこっそり潜むUMAを見つけ出し、度が過ぎた騒ぎを起こさないように保護&監視する事だ。

一般的にUMAとして知られるツチノコなんかはもちろんだが、宇宙人や天使に悪魔、日本古来からの言い伝えにも出て来るような妖怪も俺達の保護対象になる。

それらの保護したUMAの写真とデータを撮り、UMA図鑑を作るというわけだ。

………口が裂けても「ポケモン図鑑みたい」とか言うんじゃねーぞ。

わざわざ言われなくてもそれは俺も気にしてんだよ。

ちなみに4年間で俺が保護出来たUMAはゼロ。

俺のやり方に問題があるのか、UMAを見つけても決まって逃げられっぱなし。

ハンターにはならずに殺し屋になった姉貴にはバカにされるし、そろそろ1体くらい保護しないと本気でヤバい。

4年もボーズじゃ、ぶっちゃけUMAハンター廃業の危機だ。

なりふり構ってなんかいられなくなった俺は1年前に発見したUMAを保護する事にした。

そのUMAの名前は山本武。

俺の同級生だが、性格的に合わなすぎて、今まで山本の保護は見送っていた。

女にモテる奴で体育の時間や部活中はもちろん、授業中に居眠りをしてるだけで「ヤダー!!武、可愛すぎ!!」と女共が黄色い悲鳴を上げやがる。

奴の全身から出てるまがまがしいオーラに気付きもしないで、全くお気楽なもんだぜ。

あのオーラと異性にモテまくる事から判断するに山本の正体はインキュバスという悪魔に違いない。

インキュバスっつーのは女の夢に出ては子作りをするという破廉恥極まりない夢魔だ。

ちなみに女の夢魔はサキュバスと呼ばれてる。

クラスの女共が奴の毒牙にかかろうが関係ない(むしろ本望だろう)が、ここは図鑑のページを埋める為にも保護させてもらうぜ。

放課後、部活帰りの山本を捕まえて、体育館裏に連れてきた。


「なあ、獄寺。こんなとこに連れてきて何するんだ?リンチは勘弁してくれよな」
「しねーよ!!……おい、インキュバス。今日付けでテメーの身柄はUMAハンターの俺が保護するからな」
「…プッ」


交渉を始めた途端、いきなり奴が吹き出した。


「ハハハッ!!」
「何がおかしいんだよ!!」
「悪い悪い。UMAハンターの獄寺隼人っていえば…交渉しないで“保護させろ”って命令してくるとは噂に聞いてたけどさ。まさか本当だったとはな…」
「うっ…」
「確かに俺はインキュバスだけど…。誰だって保護という名目で束縛されたくなんかないだろ?ただでさえ俺達はUMAハンターが嫌いなのに堂々と名乗って、しかもそんな上から目線じゃ…100%逃げるって」
「うるせえ!!保護される気があんのかハッキリしやがれ!!」
「そうだな…。俺の悩みを解決するって約束してくれんなら、保護されてもいいぜ」


成績は良くないが、運動神経はいいし、女には困らないはずの山本に悩み?


「その悩みってのを言ってみろ。出来るだけ、協力してやるよ」
「…実は俺…同じクラスの女子達の夢に出て、Hする気になれなくてさ」
「なら、年上にしとけ」
「無理。先輩にもピンと来ないし…うちの音楽の先生ってすげー美人でスタイルいいだろ?けど、あの先生でもダメだったんだよな。ちなみに年下も無理。なんつーか、触手が動かないっていうかさ」
「…触手じゃなくて食指な」
「あ、それそれ。やっぱ獄寺頭いいんだな」


前々からバカだとは思ってたけど、こいつ想像以上のバカだ…。


「別にしなくても生きていけるけど…それって、インキュバスとしては大問題だからさ。俺が思わず夢に出たくなるような相手を見つけるのに協力してくれよ」
「……いいぜ」


こうして俺のUMA図鑑の記念すべき1ページ目に山本のデータが書き込まれる事になった。

こぞってミーハーだけど、いろんなタイプが揃ったファンの女共も美人でグラマーな女教師も年下もアウトって…。

どんな奴を連れてくりゃ満足するんだか…。

まあ、約束しちまったもんは仕方ねえ。

何が何でも山本好みの相手を見つけてやるぜ。


END


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