ボンゴレチルドレン(悪徳マフィア絶滅計画最終回から16年後)
「おい、獄寺!!お前の父ちゃんって、浮気男なんだろ?」
「ち…違うもん。お父様は浮気なんかしないよ…」
“獄寺”
クラスメートにそう呼ばれた、少し日本人離れした風貌の少女は目をうるうるさせながら、反論した。
「だって、お前、愛人の娘だろ?うちの父ちゃんが言ってたし」
「そ…そうだけど…。お、お父様は奥様のことも私のお母様のことも本当に好きなの…。そ、それに…お父様の奥様公認の関係だし…浮気じゃないよ…」
「ケッ、変な家族!」
「ひ…酷いよ、持田くん…うっ…グスッ」
「こらあっ!!持田!!」
少女がとうとう泣き出したその時、長身短髪の少女が鬼の形相で走ってきた。
「げっ!!栞(しおり)!!!」
「アンタ、また繭佳(まゆか)を泣かしたのか!!高校生のくせにガキみたいな事して…今日という今日は許さないからな!!」
イジメっ子の持田少年は栞というこの少女が非常に苦手である。
何せ、誰かをイビっていると、必ず邪魔をしてくるのだ。
いつかギャフンと言わせてやりたいのだが、スポーツでも口喧嘩でも勝った試しがない。
テストの点では勝った事もあるが、僅差の為、あまり自慢にはならない。
「し…栞ちゃん…。やめてよ…。喧嘩はよくないよ…」
「繭佳…」
「(チャンス!!)」
天敵の気が自分から逸れたのをいい事に、持田は少女達に背を向け、一目散に逃げ出した。
「あっ、持田!!待てよっ!!」
「誰が待つか、バーカ!!」
逃げ足の速さは天下一。
持田の姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「…繭佳。あんな奴、無視しなよ。母親が愛人だから何だってのさ。あたしらの親の深い絆を知らないくせに、他人がゴチャゴチャ言わないでもらいたいよな」
「う…ん…」
怒りが収まらない様子の少女の名は山本栞、持田にイジメられていた少女は獄寺繭佳。
2人は異母姉妹であり、栞よりも数ヶ月早く産まれた繭佳の方が姉である。
「ね、知ってた?アイツの親父ってさ。昔、京子さんを賭けてあたしらの父さんと決闘して負けたらしいよ」
「え…」
「英徳(ひでのり)が教えてくれたんだ。京子さんと付き合ってたわけでもないのに彼氏気取りでね。京子さんに告白した父さんにぶちギレて、決闘申し込んだはいいけど、返り討ちにされたってわけ」
英徳の名は沢田英徳。
栞と繭佳の異母兄にあたる。
「だから、繭佳もそんな強い父さんの子供だって事に自信持てって。あたしらは何も悪い事してないんだし、堂々としてればいいの。…あんな持田なんかに負けんなよ」
「が…頑張ってみる…」
「そーそー、その調子」
「栞、繭佳」
名を呼ばれ、2人が振り返ってみればメガネをかけた明るめの茶髪の少年が立っていた。
「海(かい)」
「海ちゃん」
「繭佳。もう、ちゃん付けはやめろ。高校生にもなって…恥ずかしいんだよ」
「う…ご、ごめん…」
異母弟の沢田海にたしなめられ、繭佳はシュンとうなだれた。
「まあ、いい。それより、さっき持田とすれ違ったんだが…。俺は何もしてないのに睨まれたんだ。…2人共、何か心当たりはないか?」
海自身には身に覚えがないのに持田がキレたり、突っかかったりする時は大抵、腹違いの兄や姉と何かがあった時である。
睨まれた原因が身内にあると感じた海が持田が走ってきた方向に行ってみれば、繭佳と栞がいたというわけだ。
「あー。父さんや繭佳をバカにしたから、あたしが説教したんだよ。多分、そのせい」
「そうか。…ああいう奴に限って、父さんの正体を知ったら、態度がコロッと変わるんだろうな」
海はメガネの奥の瞳を不敵に輝かせた。
表情は全く変わらないのだが、父にひざまずく持田を想像し、愉快に思っているのが繭佳と栞にはすぐにわかった。
海は真面目そうな外見に似合わず、少々サディスト的な一面がある。
海はそんなはずはないと否定しているが、どちらにせよ、今回のように頭の中で考えてみるだけだったり、いわゆる言葉攻めだけで終わるので、身内の間では問題視されていない。
「と、ところで…。私達にお父様から大事な話があるって、お母様が言ってたけど…。大事な話って、何なのかな…?」
今朝、繭佳が家を出る際、学校が終わったら、兄弟全員で父の実家まで来るようにと母に言われていたのだ。
栞と海もまた母親から同様のメッセージを受け取っていた。
「…マフィア絡みの話じゃない?」
「俺もそう思う」
「…やっぱり?」
何を隠そう、3人の父親はマフィアなのだ。
名は沢田綱吉。
日本人でありながらマフィアのボスを務め、さらにマフィア界の頂点に立つ男だ。
この場にいない英徳、そして繭佳・栞・海の4人を含め、全部で6人の子供を持つ父親でもある。
とはいえ、繭佳も栞も海も中学生になるまでは、ずっと綱吉の職業はサラリーマンだと思っていたのだ。
「(嫌だなあ…。マフィアになってみないかって聞かれたら、どうしよう…。私、マフィアじゃなくてピアニストになりたいのに…)」
マフィア絡みの話と察していながら悩む素振りが見えない栞や海とは異なり、繭佳は胃がキリキリと痛むほど悩みながら放課後を迎えた。
続く
オリキャラ解説(カッコ内は年齢・学年・ツナとの続柄)
沢田英徳(16・高2・長男)…ツナと京子の息子、名前は「ひでのり」と読むが「えいとく」と呼ばれる事が多々ある。
獄寺繭佳(16・高1・長女)…ツナと獄寺の娘、将来の夢はピアニスト。ピアノ教室に通っている。尊敬する人は叔母のビアンキ。
山本栞(16・高1・三女)…ツナと山本の娘、剣道部所属。体育以外の成績は中の下。
沢田海(15・高1・次男)…ツナとクロームの息子、成績優秀スポーツ万能。沢田姓を名乗っている
持田剣斗(16・高1)…ツナの中学校の先輩・持田剣介の息子。繭佳の同級生。小学生時代、栞に恋をしていたが告白前に失恋した過去あり。剣道部所属。