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□第21話
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コンコン



ヴィキがしばらく練習していると、ノックをする音が聞こえた。

…かれこれ3時間は夢中になって弾いていただろうか。


窓から外を覗くと、夕日が空をオレンジ色に染めていた。



『どうぞー』



誰かな?

そう思ったけど返事をした。


一応防御の姿勢をとっておく。

…まあ本当に敵だったらノックなんてしてくれないだろうけど。


というかその前にこの家に侵入者なんて入れるわけないけどね!



「失礼します、ヴィキ様」



ノックをした人は使用人さんだった。

使用人さんは部屋に入ると軽く会釈をし、用意していたらしい紅茶とお菓子をテーブルに置く。



『あ、ありがとう』



ちょうど喉が乾いていたところだった。

頼んでもいないのに…なんて優しいんだろう。



「ヴィキ様、いつもお疲れ様です」



ひとしきりテーブルに置くと、使用人さんは私に笑いかける。

綺麗な人だなあ…



『いえいえ、こちらこそありがとうございますっ』



ヴィキは持っていたバイオリンと弓を近くの鏡台に置くと、テーブルの方へ行く。


せっかく持ってきてくれたので、一緒にお話でもしようかな。



「お礼を言うのはこちらの方ですよ」


『えっなんで…?』



お礼を言われるようなことなんてした覚えがない。


私はテーブルの近くの椅子に座ると、使用人さんも座るよう頼んだ。

…結局断られてしまったけど。



「ヴィキ様がこちらにいらっしゃってからキルア様、とても変わったのですよ」


『そうなの?』



するとふふっと笑ってそうですよ、と言う使用人さん。

…優雅だ。



「キルア様は、あなたがいらっしゃる前はあんなに笑いませんでしたよ。
それもあんなに嬉しそうに笑うキルア様なんて私は初めて見ました」


『そうなんだ…?』



嬉しかった。


私がいたら、キルアには悪い影響しか及ぼさないんじゃないかって…

心のどこかで思ってたから。



「…これからも、キルア様と一緒にいてあげてくださいね」



…私なんかがキルアの隣にいてもいいのかな、

そう思ってたけど。


この一言で、ちょっとそんな気持ちも消えたような気がした。



『…うん。約束するよ』



それを聞いた使用人さんは嬉しそうに微笑んだ。



「それではそろそろ…」


『あ、ありがとう』



使用人さんがそう言って立ち上がったところで、そういえば使用人さんは仕事中だったことを思い出す。

…悪いことしちゃったかな。



『ごめんね、忙しいのに』


「いえいえ、お気になさらないでください」



なんていい人なんだ。


使用人さんは私に微笑むと、軽く会釈をしてから部屋を出て行った。



『…ずっと一緒、かあ』



ちょっと前までは信じられなかったよね。

なんか今でも信じられないけど。



ヴィキは残りの紅茶を全て飲み干すと、立ち上がる。


…気が付けば外は真っ暗だ。



『…キルア、大丈夫かな』



今頃ミルキに鞭で打たれているんだろうか。


…キルアに会えないかな。

たぶん行っても部屋には入れさせてくれないだろう。


でもまあ、このままここにいてもやることはバイオリンを弾くくらいだし。

駄目元で行ってみよう。


思い立ったらすぐ行動。

ヴィキは部屋のカーテンを閉めると、部屋を出た。



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