ガラクタは夜遊ぶ
□下町最速料理人
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昔の話をする。
なんの気無しに深夜番組を観ていてたらコーナーの一つで『ミスター味っ子』にいるキャラの一人、『味皇』なる人物のリアクションについて考察してた。
味皇… 勿論 本名ではない。
村…村田？村… 何かいかにも居そうな普通の名前でかえって記憶に残らなかったんだけど、ミスター味っ子って主人公以外 次から次へと料理対決に現れる刺客も凡庸な名前が多い。漫画っぽくない。現代なら現実の方がよっぽど付けられたのが自分なら羞恥で悶えるくらい煌めいた名前が多い。俺はそんな作者のセンス、嫌いじゃないぜ寧ろ好きだ。
さて主人公の名前は『味吉陽一』…名字がちょっと料理漫画の主人公っぽいかな？くらいで やはり平凡… いくら食べ物漫画の草分けとはいえまだ年若い夫婦が知らずに自分の子供に付けたとしても許されるだろう。寧ろそんな大昔の漫画の存在すら知らなければそれまでだ。
昔の、まだ小学生だった頃の俺はそう思った。
だから俺は自分の名を この環境を 全て受け入れてきた。
生家は下町何でも出すよ。な まぁまぁ小綺麗な飲食店。ボリューム満天・旨いよ早いよお安いよ！をモットーに下町の職人達の胃袋を日々満たしている。職人…いいなぁ手に職。将来は下町発信のロケットでも作ろうかなぁ…
自営業の子供は即ち労働力。父親不在となれば尚更だ。いや、生きてんだけど父親 俺が確かに『あの』『味吉陽一』なら。たぶん記憶喪失で中国を渡り歩いてる…。それはともかく中学生であろうと労働基準法なんぞ関係なく『お手伝い』の範疇でコキ使われる。
「よ〜っ陽一君っ 今日の昼飯メニューはなんだあぁ ｶﾞﾊﾊﾊ」
「あ〜… 今日はガッツリ肉厚カツ丼」
「楽しみだあ〜 陽一君の料理は最高だからなあ」
「まったくだ〜」
「「「「「ワハハハハハ」」」」
……給士に廻る分にはいいと思うんですよ。
しかし、義務教育中の中学二年生が自分のとはいえ店で平日昼から料理して尚且つ提供していいものかとゆー… 調理師免許、取ってないんだけど。良いのか別に。良いのか？食中毒事件でも起こしたら叩かれないかなぁ主に母さんが。ヤッベ！俺 身を慎んで小さくなって目立たないように生きてこ。
「味皇っ こんな汚い店で…っ」
おやおや混みに込んだクソ忙しい店内にケッタクソの悪い奴が入ってきましたよ。
実際ケッタクソ悪いのはお付きの小太り男だけど、そんなん連れてるアンタも同罪だ。いきなり乗り込んで来て急に店の悪口ってコレどうなの？わざと？営業妨害？内装に関しては外装から一目瞭然なんだから文句言われる筋合いはないツナギが標準装備のオッチャンらに合わせてんだよ寧ろ上物の着物で現れるお前が非常識だ油染み作れ味皇めがっ
「で お薦めは何かな？」
着物姿の味皇がおもむろにお訊ねになりましたが無視。や 今 緊張の一瞬だから！タカさんのカツをｶﾗｯと揚げるのに忙しいから！ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ音を聞き分けてるから話し掛けないで！
「今日のお薦めはカツ丼だぞ〜」
シゲさん…っ 陽一カンゲキ。料理中の俺に声を掛ける者はこの日ノ出食堂に存在しない。集中力を高め この一瞬！を掴み取る俺の邪魔をする者はいない。メニューはその日お薦めしか出さないし。ふわふわオムライスは金曜日にしか出さない。どんなに客がオムライス気分であろうと金曜日以外決して出さない。だから今日のお薦めを告げれば皆さんもう俺に用はない。
そんな俺のポリシーを慮りシゲさんは一見の客に席を譲り尚且つ説明まで…っ
「カツ丼〜！？ そんな肉厚で、中まで火が通るとでも思ってんのか〜？味皇っ 店を変えましょう。こんなガキの料理する店信用なりません」
帰れ。その興味深そうな髭面の味皇を連れてマジ帰れ。コチトラせいぜいこの先ノミの如く小さくなって平穏無事に生きていこうと決意したばっかなんだよ。決して新聞沙汰は起こすまいと。豚肉半生食中毒事件なんぞで紙面を煽ってたまるかっ お前、この後どっかで良いもん食い過ぎてハライタ起こしてもウチのせいにすんだろ帰れ。
「はい タカさんのカツ丼お待ちどうさま」
「どれ 頂いてみるかな」
……………。
タカさんのっつってんだろおぉぉおおっ
（「う 美味い！ これ程肉厚であるに関わらず中まで火が通りしかも表面はサクサクのキツネ色!! 噛み締める度にジューシーな肉汁が口の中に溢れ出てとろとろの半熟卵と出汁のしっかり浸透した米が…」
「な。美味いだろう！陽一君の作ったカツ丼は」
「だろー」「な〜」「早く喰いてー」
「……… タカさん ……（ﾎﾛﾘ）」）
2012 5 31
※ 原作での陽一の料理法ポイントは二度揚げだったけど、夢主さんはミルフィーユ手法でやっている。薄い豚肉を何枚も何枚も重ねてこ〜… コストパフォーマンス的に下町安飯で肉厚豚なんぞ出してられない。出たとしたら、それはヤバイ肉だ。安全は値段なり
お次は味皇視点→##B4_1023419##