ガラクタは夜遊ぶ

□クラス全員人外トリップ
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『は〜い 皆さん。ちゅうもっく〜』

騒がしい教室に粘着質な声が上がる。
前の席の幾人かは大人しく教壇を見上げたが、後は声に反応した者も全く気付かなかった者も当然のように無視をした。

肩に着く程度の中途半端な長さの髪を掻き上げる仕種がうっとおしい。その長さなら括るか切ればいいのに何故流したままにするのか。良く言えば濃く艶やかな髪だけど、ようは分量がやたら多くてベタついたギッシュな髪質。後ろの席からは見えないがフケが飛んでそうだった。
真ん前の子が心持ち後ろに退く。比較的大人しめの優等生の彼女でさえ露骨に態度に出していた。

ようは、この中学校教師は舐められていた。
短躯で若いわりにオジサン顔でしゃべり方がくどくてその 勘違いしたような髪形とこっちは似合いの上ジャージと下パンタロン。パンタロンて。実際に履いてんの見たのは初めてだ。
ここまでキャラが濃ければかえって受けそうなものだけど…

無理

私たちは皆知っていた。
粘着質な声色に潜む私たちに対する嘲りを。観察する冷徹な色を目に宿し隠すことなく私たちに向けていることを。

『ちゅうもっく〜 はい。じゃ、説明しますね〜 君達全員クラスでトリップしてもらいます』

視線が集まらずとも騒めきが収まらなくとも、教師の調子は変わらない。ここにはないどこかを眺めて焦点の合わぬ目で言いたい事だけ並べ立ててゆく。

『君達のクラスが選ばれました!! オメデトー これは政府の人体じ…ゲホン 日本の未来を憂いた偉い人が異世界での可能性を探るべく始めた壮大な実験であります! 拒否は出来ません逃げればテロリスト指定で進学就職はおろか家族の命もありまっせ〜ん。いやいやこれは当たり前ですね。日本の将来を担う立派な人間を育てる役目を全う出来なかった訳ですから責任は親にもありま〜す。さ 立てよ若人 導け未来を 世界相手に戦う全国民の皆さんの為に、そのクダラナイ命を捧げてくだっさ〜い』


『異世界深交計画』

変換間違いじゃない。

が、そのギャグ日本語圏の人間じゃないとわっかんねーよ!

次の瞬間 カパッ と床が空いてここ三階下に二年の教室の筈がマーブル状の異空間が広がっていて ―――…


『上手いこと異世界人と仲良くやって下さいね〜。上等の異世界人と『上がり』になれたらこっちに戻って来れますからぁ〜 あ、クラス全員でバトルロ愛アルして御褒美は一人だけ。なんてケチ臭い事いったりしませんから〜 君達はゴミですが、愛すべき国民には違いありまっせ〜ん!君らは死にまっせ〜ん…』


一クラス48人 少数ゆとり教育の真反対に位置するごった煮クラスメイトたちと互いに手を繋ぐ。咄嗟に繋いだのはいい判断だった。それでも渦に巻き込まれて分断された… 彼等と再会出来るかは分からない…

ムカつくキモ教師と偽善な為政者たちに告ぐ!

雑草は死なない!









∨ ある一人の女生徒ともう一人


真っ白な翼が目に入った。背中に生えたしなやかな翼… 差し向かいには黒い恐竜。おや あの翼は私と同種のようだ。
首を傾け目配せすると、黒い彼も心得たように頷いた。

…… おやおや。これはラッキー のっけから最強設定とお仲間ゲット。足元で騒ぐ少年等とテラテラした動物達がうざったい…。

で 主人公は誰だ。




∨ 優等生ぶりっこ頑張ってました家なき子たち


ウゾウゾ ウゾウゾ ウゾウゾ ウゾウゾ…

ウゾウゾ集合。個々の意識は有るし なんか強い指令を受けると従わずにはいられない。瞬きする眼球は一つしかなく映る風景は魚眼レンズを通したような歪な形。瞬き 瞬き 瞬き 瞬き ツー ツー トトトン ツーツーツー… 残念ながら私たちは目玉だけの生き物のようで口が無く口が無くては意志疎通は難しい。が、一種のコミュニティが形成されている為か互いに黒い体を擦り付ければ共鳴できる。
さて、ツーツーツー と瞬きでシグナルを送れば何ぴきかが反応した。仲間だ。尻尾を絡めて情報交換。

あ ここ魔界? そ〜 昨日まで人間界。ちょっとサタンに喚ばれて使い魔って来てたのさ〜 もうちょっとで青い炎に燃やされるところだった〜 もぅ ヤダ恐い。

詳しく話を聞けば 人間界にサタンの落とし胤がいるらしくお迎えにいったら青い火で追い払われたってさ。

ちょっとそれ主人公。

見るからに小悪魔な私らが、どうやって敵対主人公と『上がり』になれって…

死ぬかもしれないな。等と思いながらも有象無象の黒い塊になって 大人しくサタンの召還に従う私たちだった。増殖アメーバ共生の幸福。私たちは独りじゃない!

…なんちゃって



∨ とある一人の一見 人間


ぐわ。全裸の美少女が泳ぎながら笑ってる。
全員同じ顔で。溶液で浸した水槽の中で。薄水色の髪が水の中でワカメみたいに広がって、覗き込んだ赤い目の中に同じ顔が映っていた。表情は、一人だけ情けない。泣きたい。
どうせ泣いてもわからない… しっこはどうだろう。と 思った瞬間 全員の赤い目が自分に集まった。

…プールといっしょですねー

何人目かの『綾波レイ』として解放される(時が来るのか?)までひたすら羊水でたゆたうのだった。ふやける。




∨ 最初の女の子と残り全員



の 瞬間 ヘリから散布された。

一瞬の停滞 そして空からのダイビング… 流石にヒモなしバンジーもとい、パラシュート無しパラグライダーは初めての経験だった。そんな金持ち遊びしたことない。

残念な事に 仮に親切な王子様が通りすがりに同情してパラシュートを下さったとしても私たちには如何ともし難い。

何故なら丸いからだ。

丸 球体 黄色 地模様に白い線が交錯した… それはまるでテニスボールのような

テニスボールだ。アホウ!

そりゃ気遣いなんてある筈がない。地面に激突しても跳ねるだけだ。ポンポンポンポン あら貴女 よく跳ねるわねぇ素敵な弾力反発力… て、激突こえぇえええっ!

いっしゅん だけど えいえん の狭間に。私たちは連携を取り合った。


「出席番号一番 阿形カナメ!自分はこのシーンを知ってるであります!『新・テニスの王子様』の冒頭あたりのエピソードであります!皆さん、中学生です中学生!将来有望な強い道ずれは今現在中坊たちでなのあります! 頑張って我々はレギュラー格の彼等の手元に転がり込むであります!」

「「「「「アイアイ マム!」」」」



こうして私たちは、不思議な力を駆使し この世界の中心人物と思われる人達のての中に次々と落ちていった。見るからにイケメンには二人三人と群がる。美形 = 中心人物 だろうどうせ。ハーレムと同じで運気の強いやつに引っ付いてたいんだぴょん。

内何人かは中学生と思えないフケ顔に掴まって絶望に身を染めているが、うん。安心しろ。美形だ。たぶんそいつら中学生。




2012 7 5
 

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