ガラクタは夜遊ぶ

□頭がブーメランの人
1ページ/8ページ


その日はとても蒸し暑く。


ホントに5月なのかしら…スーツが暑い。黒くて暑い。
今ですらこんなだと夏本番どうするのかしら。むしろ湿気が!蒸されてる蒸されてる!お肌にはいいかカモン!天然ミスト!

… 多少やさぐれていた感は否めない。終わりの無い就職活動と見えない自分の未来とを思ってビルの合間の空を見上げる。
空は、ただ蒼い。
軽く目を閉じ首を左右に小さく振る。再び地上に視線を戻し、

「…え…?」

左手にあったコンビニが無い。
その隣の花屋も密集したビル群もそれに圧迫されるように見え隠れしていた階段の上続くはずの神社も「え…え、なに…」

全て瓦礫に変わっていた。足下からジャリジャリと音がする。
不安定な地面にヒールを捕られヨロりと傾く。
寸での所で足を踏み出し体勢を整え前を見た。

老婆がいた。


普通の老婆だった。
それこそこんな不可解な場面でなければまったく注意も払わずそのまま通り過ぎ記憶にも残らないような。もし近所に住んで居るようなら挨拶ぐらいするかもしれない。ふつう、の、人の良さそうなただの老婆。だけど逆光でその表情は伺い得ない。
いつの間にか暮れかけている陽のなかビルの反射熱も無いのにじわりと汗が伝って自分は恐怖しているのだと知った。

老婆の視線は私に固定され動かない。他には誰もいない静寂。
何も聴こえない。鳥の声も風の音も 突然の辺り一面瓦礫の非日常のなか、貼り付けられた様に存在する日常そのものが何故か妙に恐ろしい …『ゴクリ』喉を鳴らす音が頭の中に響く。

老婆ガ何カイッテイル

相変わらず表情は見えない。

再び傾く体

今度は

支 エ ラレな か ッ タ
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ