ガラクタは夜遊ぶU

□お弁当うぉーず
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「はい。さてでは春の新作『花可憐弁当』の新パッケージと名前の検討会を始めたいと思います。皆様忌憚無いご意見を思い残す事無くぶつけてやって下さい。さぁどうぞ思いの丈を」


目の前の試作品に目を落とす。碁盤の目に区切られたケースに肉中心のオカズが少量ずつ配置されご飯は上にのり・卵・挽き肉の三色で彩りよく飾られていた。
肉を摘まむ。甘辛く煮付けられていてすき焼き風で固い。肉が固い。どうせならソボロにすれば良いのに…


「内容は春っぽさを追求してるので桜の花びらなんか散らしたピンクのパッケージにすればどうでしょうか。女性受けしますよ」


オカズの品目は全8種類。少量づつとはいえ結構な量だし豪華に見える。女性受けはする。と思う。
ハンバーグに見せ掛けて鳥のつくねはシュキシャキ蓮根入りで歯応え抜群だし焼売は豆腐焼売。ヘルシー。ヘルシー追求ついでに春雨を入れて春らしく桜でんぷで華やかさをプラス。デザートが無いなデザート…唐揚げは止めて代わりに桜餡大福は無理だろうか。


「女性向けなら〜…ほら、女性は戦国好きだろう。なんだ?今戦国ブームとかで」

「今って言いますかだいぶ前からブームです課長」

「三国志とか水滸伝とかがいいですかね課長」

「それじゃ中華じゃないですか係長。九州発弁当の話をしてるんですよね。今。キヨスクに置いて貰うんですよね」

「お 三国志を知ってるのか。歴女って言うんだろう歴史に詳しい若い女性の事を。じゃあパッケージに戦国武将をあしらおう」


何が『じゃあ』なんだろうか。とにかくパッケージは戦国武将を起用した若い女性狙い弁当に決定したらしい。肖像権関係ないしねって誰にイラスト頼めばいいの…『京都=風光る(新撰組)』みたいなイメージでいきたい。九州方面の武将を描いた漫画〜?コラボ〜?


「ここから巌流島が近いから。宮本武蔵と佐々木小次郎はまず決まりだ」


いきなり戦国武将じゃなかった。
なんだバガ●ンドの絵で行きたいのか?無理だろう契約金…
近くの港から船で約10分の位置に小次郎が待ちぼうけをくらった巌流島があるからってこの二人で決まりらしい。
武将じゃないけど、時代としてはギリギリ関ヶ原には間に合っているよしとしよう。ガッツリ武蔵をあしらった弁当が女性受けするかは置いといて。


「他に…は、ほら下関が近いですから〜山口…吉田松陰なんかはどうでしょうか!」

「松陰先生が女性受けするかはともかく幕末前夜の人です主任」

「先生って君ねぇ」
「先生って呼んでるのかい大好きじゃないか」
「人気じゃないのかい?白髪の孤児を引き取って育てていて最後殺される長髪の優男だろう。僕の娘なんかがきゃーきゃー言ってて」

「髷時代の男は大抵長髪です。後、最後の発言者はどっちの漫画を指してます?
平和作りの方なら残念ですが吉田違いです。どちらにせよ版権問題で訴えられて負けですよ」


しーん… 会議はいきなり暗礁に乗り上げた。事件は会議室で起こっている…何でお話合いなんかしてるんだ一人一人パッケージを考えて発表投票難癖改定決定でいいじゃないか時間の無駄。


「じゃあ、武蔵と小次郎は入れて後それぞれ好きな武将を入れよう」

「好きなって。それぞれって」

「今人気なのは〜ほら、伊達政宗だろう。隻眼で兜が格好いいって…聞いて下さいよこの前デパートに孫の節句の兜を買いに行ったら『伊達伊達伊達・真田・豊臣・伊達・愛の人・伊達』で、徳川は何処へ行ったんでしょうねぇ…」

「政宗様は仙台のお人です課長」

「様って」
「様って君、敬ってるじゃないか昔の人を」

「では平清盛にするよ…君は厳しいねぇ…」

「平清盛は鎌倉幕府樹立前の人ですけど。鎌倉→足利→徳川と武蔵達と結構な開きがありますが」

「戦国時代じゃないのかい。戦っているだろう」

「あ そんなおおらかな定義でいいんですね。申し訳ありません概ね戦っています。怒涛の戦国時代です間違いありません」

「広島=厳島=平清盛だよ。勉強不足だよ君ィ」

「申し訳ありません。武蔵は左上に、小次郎は右下にそれぞれ小さくあしらって清盛入道は若かりし頃の長髪バージョンで右上に顔をドドンと入れましょう」

「2012年神戸で観光大使してた時みたいな感じでお願いするよ」

「生きてる人みたいに言わないで下さい。後、版権に触れます」

「リスペクトだよ君ィ」

「難しい問題ですね…」


上の人のグイグイくるご意見で画面…じゃない、パッケージの方向性は概ね決まった。
牡蠣もフグも無い弁当なのに多方面から節操なく人を引っ張ってくる遣り口に、ひょっとしたらイケルかも。と思わないでもない誰がイラストを描いてくれるのだろう…武蔵と小次郎と清盛って。


「高知の坂本龍馬も入れてくれ」

「坂本龍馬は幕末の人です課長。流石に駄目です。何に因んで弁当にぶっ込む気ですか」

「龍馬といえば海援隊。海援隊と言えば『かすていら』だろう。このペラッとしたカツを止めて『かすていら』をデザートに入れたらどうだろう」

「賜りました。女性にデザートは付き物…係長、見直しました。ピンクのカステラを入れましょう…苺味ですかね?桜味と見せ掛けて苺味。龍馬は左下、武蔵より前に大きく載せましょう。遠近間は無視です」

「平清盛より目立つのかい?」

「えっ本当に清盛入道が好きだったんですか課長。大丈夫です。清盛入道はバックで背景独り占めです」


とりとめが無くなって来たけど、話してる内にだんだんと楽しくなって来た。
年代がどうの時代考証がどうのと、ツマラナイ常識なんて弁当を食べる人には関係ないない


「ついでです。主任も何かご希望はありますか?」

「いや…わたしはいいよ…特に詳しくないし」

「まぁまぁそう言わず。チョカベと容堂様は土佐は龍馬が取ったので却下ですが、なんなら祇園印の立花とかどうですか柳川名物鰻に因んで。佐賀藩主ですよ」

「そりゃ君の意見だろう却下だ」
「鰻のせいろ蒸しは却下だ予算が足りん」


何だとこの野郎どもがっ!!この腐れ外道がっ 肉肉肉肉と競馬馬専用温泉が在るからって桜肉まで突っ込んできてどれか肉削れよっ どれだよ馬肉はっ
一気にヒートアップして座布団が会議室を飛び交い荒れに荒れた会議だったが、気を使った主任の発言により収束を迎えた。


「女性向けなんだから…架空の人物で良いから姫武将が真ん中で囲まれてるってどうかな…食べる人はその人物になった気分でさ…」


主任 … 発想がギャルゲか夢小説的ですね。とは言わなかった。大人だからさ。




後日。売れ行きチェックに行ったら見事に売れ残っていて泣けた。




2013 3 11

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