こっこさんの「強く儚い者達」をなぞった小話。

大方歌詞通りなのでディーノさんが超可哀想。寝取られる。
ツナちゃんが尻軽かもしれない。
そして炎真君出てきますがツナちゃんへの矢印はないです。

そんな感じでとにかくディーノさんが可哀想なだけの話です。










「ツナ。オレは必ず帰ってくる。だから…オレを信じて待っていてくれるか?」
「はい!オレ、待ってます。ディーノさんのこと。いつまでも待ってます!」
「愛してる、ツナ」
「オレも…です」

最愛の人である綱吉と固い誓いを交わして、ディーノは島を出た。
綱吉を守るため。
綱吉との幸せな未来を築くため。

島を狙う海賊達を薙ぎ払い、財宝の眠るという宝島を目指した。
嵐の中で戦い、突風や荒波を乗り越え、ディーノを迎えたのは美しく輝く青い海。
優雅に舞う飛魚達の作るアーチを潜り抜け、ディーノはついに、探していた宝島へ辿り着くことが出来た。

「いらっしゃい。ここまで、よく来たね…」

上陸したディーノを出迎えたのは、一人の赤髪の少年だった。
彼は何処か、綱吉に似ている気がして。
重なる面影。
ディーノは少年の前で崩れ落ち、涙していた。
生きてやっと目的の場所に着いた安堵と、溢れんばかりの綱吉への想いで。

「ツナ…っ」

島を出てから、綱吉と離れ離れになってから。
もう、一年が過ぎようとしていた。
その間に一度も連絡すら取れず、この手で抱き締めてやることも愛を囁いてやることも出来ず。
何度も悔いた。戻ろうとした。
自分も綱吉に触れられずに、苦しくて寂しくてたまらなかった。
島にいる綱吉は、きっと、自分よりも何倍も辛い想いをして待っているに違いないと思った。
でも、これでやっと…幸せの欠片を掴むことが出来る。

「ここはいい場所だよ。朝陽が綺麗だし、食べ物もおいしい。住み着いちゃう人がほとんどなんだ」

いきなり何を言い出すのかと。
ディーノは呆気に取られて少年を見つめた。
少年は何処か遠くを見つめ、微笑む。

「何も失わずに、同じでいられると思う?」

少年の言葉に、ディーノは息を飲んだ。
同じでいられるに決まっているのに。
何も失うものなんて、ないはずなのに。
どうして、こんなに鼓動が走るのか。
地面に膝を付いているディーノの頬をそっと手の平で包んで、少年は瞳を交わした。
動けない。
何か紋章のようなものが揺らめく瞳が、限界まで、息遣いを感じる場所まで近付いてくる。

「な…っ、」

少年の瞳を介して、頭に流れ込んでくる映像。
ディーノは思わず、少年を突き飛ばした。

「ざけんなっ…!」

一気に込み上げてくる怒りの感情が収まらない。
ディーノは拳を握り、我を忘れて声を荒げた。
瞳を血走らせて。
拳はブルブルと震えている。
少年がディーノに見せたのは、


『あっ…ああ!びゃくら…白蘭っ!』
『可愛いよ綱吉クン。ほら、もっと動いて気持ちよくなってごらん?』


知らない男の上で、はしたなく腰を振る綱吉の姿だった。
見たことのない、快楽に溶けた瞳で自分以外の男を見つめて。
聞いたことのない、甘ったるい声で自分以外の男の名前を呼んで。
自ら口付けを求めて、愛の言葉を強請っていた。

『白蘭っ、好き…ずっと傍にいて。オレを一人になんてしないで!』
『うん、好きだよ。僕は絶対に、君を一人になんてしないよ』


信じられない。
信じられる訳がない。

けれど、男が綱吉の指から抜き取った指輪。
それは確かに、ディーノが綱吉に与えたものだった。
初めての、お揃いのリング。
綱吉が泣きながら喜んでくれたリングが、今。
他の男の手によって外されていた。

信じられない。
信じたくなんかないのに。
ディーノは雄たけびを上げながら髪を掻き毟り、再び地面に崩れ落ちた。

「信じなくても別にいいよ。あなたが島を出て、彼は毎日襲う寂しさと悲しみにずっと一人で耐えてきた。あなたとの約束だけを心の支えにして」

拳に血が滲む程、地面を叩きつけて睨んで来るディーノを鎮めるように。
少年が静かに語りかけてくる。

「けれどある日、島に狐が入り込んだ。狐は今にも泣いてしまいそうな彼に近づいて、甘い言葉をたくさん囁いた」
『本当は泣きたいんでしょ?我慢しなくてもいいんだよ。僕が胸を貸してあげる。思う存分、泣いたらいいよ』

ぽっかり空いた胸の空間を、甘い言葉が埋め尽くしていく。
ディーノ以外に与えられる、甘い言葉が。
そして、優しく差し伸べられる指。
ダメだと、解っていたのに。
寂しくて、辛くて、悲しくて。

どうしても、拒否出来なかった。

「人は弱いものだよ。とても弱いもの」

彼は、君よりも弱かった。
ただそれだけの話だ。
少年の淡々とした様子に、あんなに怒りで熱かったディーノの体が、今度はどんどん冷え切っていく。
もう何も聞きたくない、と、ディーノは蹲って耳を塞いだ。

「だけど、すぐに変化して馴染んでいくんだ。人は、強いものなのかもしれないね…」
「もう、いいっ…もう…」

一向に顔を上げる気配のないディーノの傍らに、少年はしゃがみこんだ。
伸ばした指が、そっとディーノの金色の髪に触れる。
ディーノは背中を震わせながら、蹲ったまま。

「この宝島がこんなに美しいのはね、あなたのような人たちを癒すため。…そう、本当はみんな住み着いちゃう訳じゃないんだ」

優しく髪を撫でると、ディーノが動く気配がする。
ゆっくりと上げられる顔。
その目元は、既に赤くなっていた。


「みんな帰る場所を失って…ここにいるしかなくなるだけ」


少年は出来る限りの穏やかな笑みを浮かべて、髪を撫でていた指をディーノへ差し伸べた。
優しい指。


「僕の部屋…来る?美味しいものに、甘いお菓子でも、何でもご馳走してあげる」


ぽっかりと空いた胸の空間を満たしていく、甘い言葉。
綱吉以外に与えられる、甘い言葉。
そして再び重なる、愛しい面影。


「…優しく、慰めてあげる」
『ディーノさん』


人は、弱い生き物だから。
とてもとても、弱い生き物だから。
拒否なんて、出来ない。



「人は強くて…やっぱり儚いものだね♪」


縋るように己を掴んでくる指。
それを掴んで指からリングを抜き取り、白い狐は愉快そうに微笑んだ。





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