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□巣作りドラゴン〜初めての巣作り
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カズヒラは実は里を出るのがほとんど初めてだった。
二度ほど友人に誘われて出たことはあったが、人間が怖かったのでさっさと帰ってきてしまっていた。
竜になってしまえば人間に負けることなどないが、人型になってしまうと竜の力も人並みである。
人間はとても野蛮だと聞いていたので怖かったのだ。
巣になる予定の洞穴につくと小さい人型の種族が立っていた。
魔力を感じるから魔族だろう。
「はじめまして。カズヒラさま。わたくしMSF商会から派遣されましたマングースと申します」
「あ、そう」
「巣作りに必要となる罠やモンスターを買っていただく代わりに、巣作りに関するアドバイスや諸手続きを私が全て処理いたします」
「へぇ」
「あ、でも身の回りの世話などは出来ませんので悪しからず」
「……べつに家事くらい自分で出来るし一人でできるよ。それくらい」
「ほほぅ、そうなんですか!王の伴侶と聞いていましたから何も一人でしたことのないボンボンがお嬢かと思っていました。それは失礼を。いやぁ以前はなんでもかんでも言いつけられて困ったんですよ。それならメイドの一人も連れて来い!と内心何度思ったか」
「……以前って……二百年前のこと?」
「えぇ、そうですよ。あぁ見た目は若作りですがこれでも魔族ですから。カズヒラさまより全然年上ですよ。王様と同じくらいです」
「そうなんだ」
「えぇこれでもベテランなんです。カズヒラさまは巣をはじめてお作りになるとか……わからないことがあったら遠慮なくお聞きくださいませ」
「えっと……じゃあまず何をすればいいのかな」
「そうですね……王様は大食漢と聞きましたからいずれは農場や果樹園を作ったほうがいいと思われますが……」
「え、そんなものまで必要なの」
「はい、ですがそれにはお金が足りませんから……まずは人間を排除するためのダンジョンと罠、それからモンスターを雇いましょう」
「なるほどね……まぁまずはどんなものがあるのかもわからないし予算内で君が手配してくれ。……そのほかは?」
「はい、あとは資金の調達ですね。手っ取り早いのはカズヒラさまが竜になって人の里を襲うことです。
人間への抑止力にもなりますし、金品も稼げて一石二鳥です」
「人里を襲うだって?」
「はい」
「かえって、人間をこの巣へ呼んでしまわないか?」
「確かにレベルの高い冒険者を呼んでしまうことになるでしょう。
しかし入り込んでくる人数は激減するはずです」
「……他に資金を稼ぐには?」
「採掘ですね。巣も広がりますし金品も稼げます」
「……じゃあまずはそっちメインで」
「かしこまりましたぁ。では採掘用のモンスターを雇いますね?」
「……もうそこから金がかかるんだな」
「それはもう。ですからがんばって稼いでくださいな。ご主人様」
やれやれとカズは私室のソファに座り込んだ。
悪くないソファだ。
しかしこれの金も払わないといけないんだろうなぁ…とため息を付かずにはいられなかった。
まぁなにぶんいい家の出ではないので、質素かつ節約には慣れている。
金のやりくりも得意なほうだと思っている。
なんとかなるだろう、とその日は床についた。


カーン、カーン、カーンと響く音で目が覚めた。
「カズヒラさま。おはようございます」
何故分かったのかベッドに身を起こしたと同時にマングースが入ってきた。
「少々うるさいかもしれませんがまずはご主人様の私室周りからはじめませんと…万が一人間が来ないとも限りませんから」
「そうか」
「これ以降の採掘の方針はカズヒラさま自身がお決めください。
徐々にダンジョンを作っていかねばなりませんから」
「そうか」
寝ぼけ眼に書類を渡される。
モンスターを雇った費用その他の請求書と今後必要になってくるであろう罠やモンスターの料金表だ。
呆れるほどに仕事が早い。早いのはいいことだがせめて朝食くらいはとりたいものだ。
台所にいき軽い朝食をとると、まず今ある資金と最低限必要なものとを計算し始めた。
実際仕事を始めてみると、巣を作る作業自体は楽しかった。
こういった作業はカズヒラの得意とするところだ。
ただ問題は、この巣が王と結婚前提だということだ。
あれから王は音沙汰もないし本当に結婚する気があるのだろうか?と思わなくは無い。
態よく里を追い出されただけだったらどうしよう。
そこまで王に嫌われるようなことはしていないつもりだが。
…ただ思い出してみると、わざわざ格下の自分に声を掛けてくれたり狩に誘っていたりしたのに何かと理由をつけては冷たくあしらっていたような気がする。
まさかそれを怨んで……いや、そんな小さいことを気にするような王ではないだろう。
とにかく作るものを作らないと帰りたくても帰れない。
数日は採掘された際に出た鉱石などを売り、少しずつ巣を広げていき門番代わりのモンスターを数匹雇った。
これで少しは巣らしくなってきたように思う。
はじめは気持ち悪いなと思っていたモンスターも慣れてくると可愛く見えてくるから不思議だ。
その時。突然そのモンスターたちが騒ぎ始めた。
まさかとうとう人間にここが見つかったのだろうか?
もともとここは王の巣として用意された場所だから一般に竜が巣にする場所よりも奥まったところにあったし、まだカズヒラ自身も人里を襲っていないばかりか巣から一歩も出ていない。
恐る恐る外を覗いてみると上空から降りてくる隻眼の大きな竜。
まさかの王の来訪だ。
たしかにそれではレベルの低いモンスターたちは怖がるだろう。
王は降り立つと同時に人型を取った。
これでようやく近づける。
しかしキョロキョロと辺りを見回しても王一人しかいない。
「……お供は?」
「いない」
キッパリと言われた。
「え?でも何かあったら……」
「俺が人間ごときに負けると思うか?」
確かに、彼は人型をとっても一回り大きい。
力も人並みより強いに違いない。
「……確かに」
「で?どうだ?巣は出来たか?」
「まぁ……形くらいは……」
「ふ〜ん」
いつの間に横に来ていたのかマングースが平面図を王に渡している。
「なんだ。まだ小さいな。これじゃ俺が中で竜型をとったら壊れちまう」
「……まだ資金が足りない……」
「里襲えばいいじゃないか……ってお前は狩したことはないんだったな」
「………………」
「ふむ、ではあとで資金は回そう。で、お前の私室に通してくれないのか?」
「あ、え〜と」
「スネークでいい」
「…………スネーク」
恐る恐る名前を呼ぶと王は満面の笑みを浮かべた。
カズヒラはなにやら気恥ずかしくなりその照れを隠すように慌てて王を私室へと案内した。

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