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□巣作りドラゴン〜王の来訪
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スネークを私室まで案内した。
いつの間にかマングースはいなかった。
私室は人間を欺くための偽の竜の間の奥にあり、竜の間は当然カズヒラが竜型になっても窮屈でないほどの大きさがあるが私室では主に人型でいることのほうが多い(そのほうがコストがかからない)ため竜族から見るとかなり狭い。
そこへ王を通すのはいささか躊躇われたが仕方ない。
案の定、スネークは一瞬目を丸くしたがすぐに「お前らしい部屋だな」と言った。
「あ〜…スネーク?お茶…でも飲み…ますか?あ、それともお酒のほうが……」
「コーヒーでもくれ。それとそう畏まるな。俺とお前は婚約者なんだから」
「あ〜…それなんだけど……本当に俺でいい、……の?」
「なんでだ?」
「それは……まぁ……家系も良くないし……この巣だってまだこんなものだし……」
「俺が、お前がいいと決めたんだ。それに約束したじゃないか」
「へ?」
「だからお前が他のプロポーズを断りまくっているのは俺に操を立てていてくれているんだと……もしかして覚えてないのか?」
「ない。全く無い」
「そうか……まぁお前はまだ小さかったからな。俺が先代の伴侶を亡くしたときにお前が慰めてくれたんだ。俺が結婚して上げるから、と」
「……覚えてない……っていうか。王様が子供の言うこと信じたのか?」
「もちろん」
「忘れていて……呆れたか?」
「少し淋しいな。でも呆れてはいない。幼かったんだから仕方ない。でもあのときのお前は本気だったのは確かだ。俺は本当に感動したんだ」
「それでもしかしてずっと俺を伴侶にって決めてた?」
「あぁ」
「俺がわざと断り続けてたの気付いてたただろう?」
「あぁ、照れ隠しかと」
どれだけポジティブなんだろう。
それでもそんな幼い約束を王たる者がずっと守っていてくれたのだと思うと少し嬉しく思い、また申し訳なかった。


それからしばらくはコーヒーを飲みながら他愛無い雑談をした。
王とは思えぬ気さくさはカズヒラも好感を覚え、はじめてこの王が好かれるわけを知った。
何故自分はあんなに頑なに王からの誘いを断っていたのか今にして思えばわからない。
「っと……もうこんな時間か。お忍びできたからな……」
スネークは腰を上げた。
ほんの数時間だったがカズヒラにとっても楽しい時間であっという間だった。
思わず名残惜しさを感じて見上げる。
「……そんな顔をするな。帰れなくなるじゃないか。……しばらくまだ来れなさそうなんだ。俺まで未練が残る」
「そんな……ことは……」
思わず図星で顔をそらす。
「資金繰りやその他のことは使いのものを寄越す。何か不都合があったらそいつに言ってくれ。あと……俺への言伝もな。信用の置ける奴だから大丈夫だ」
「わかった……」
「……別れのキスをしても構わないか?」
「え?」
確かに婚約者なのだからそれくらいおかしなことではないし、経験がないどころかむしろ多いほうだとは思うが改めてそういわれると恥ずかしい。
「う、うん」
そっと触れるだけのキスだったがひどくドギマギする。
「カズは可愛いな。昔も可愛かったが今はもっと可愛い」
「そ、そんなことを言うのはあんたくらいだ」
「そりゃあ、悪い虫がつかないように尽力したからな。しかしすっかり美人になるもんだからなかなかおっつかなかったが……あれでも半分以下だったと思うぞ?」
「あ、あんたそんなことしてたのか!?」
「そりゃあ未来の伴侶だからな」
そして豪快に笑いつつ帰っていった。
そんな裏があったとは露ほども知らなかった。
以前理由も分からずに振られたこともあったがそれが原因だったものもあるのかもしれない。



後日ホーネットと名乗る竜が訪ねてきた。
王の使者だった。
「王のポケットマネーからなのでこれしか用意できなくてすまない、とのことです」
そういっていくらかのお金や調度品を置いていった。
しかしそれでもある程度の罠などを調達するには十分な金額だ。
一気に巣も広がり罠も増えた。
儲かったマングースも「毎度ありぃ」とにこにこしている。
ふと自分の私室も見る。
せめて次にスネークが訪れるまでには広くしておかないとな、と笑いながら考え。
いつのまにか楽しみにしている自分に気付いたカズヒラだった。

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