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□巣作りドラゴン〜勇者がやってきた
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巣もようやっと一般的な大きさ程度にはなってきた。
たまに現れ竜の宝を狙う冒険者もいたがほとんど奥まで入ってこれるものはいなかった。
しかしどこからか噂が広まったのか徐々にレベルの高い冒険者が現れるようになりそれにあわせてモンスターや罠も増やさなければいけない。
そうなってくるとだんだん王からの援助や採掘で得た資金だけでは足りなくなってきた。
「やはり狩りもしませんと」
「狩りねぇ……」
つまり人里を襲うということだ。
カズヒラは覚悟を決めた。
竜になりさえすればめったなことでは負けない。
近場の里をいくつか威嚇すればすぐに金品は集まった。
生贄として生きた人間も差し出されたが特に必要なかったので何ヶ月か採掘の仕事を任せたら帰していた。
おかげで近場の里からは比較的大人しい竜とみなされたらしい。
襲う前にいくらかの金品を寄越すようになった。
しかしそれも微々たるものだ。
やってくる冒険者はどんどん強くなってくる。
自然狩りも里から街。街から都市へと変わっていった。
それなりに慣れてきたし多少怪我もするが見合う報酬はあった。
しかしとうとう人間の国で討伐のふれがでたらしい。
そうなると勇者クラスの人間がこの巣になってくる可能性は高くなった。
「マングース、どうだろう?今のモンスターで勝てるか?」
「どの程度のクラスの勇者が現れるか分かりませんが……普通の冒険者のAクラス程度でしたらもう今の段階で余裕で撃退は出来ています」
「う〜ん、微妙な線だな」
「万が一奥まで入り込まれると危険です。竜の間付近の罠を強化したほうがいいかもしれませんね」
「そうなるとまた金がいるなぁ」
はぁ〜とソファに沈み請求書と料金表を交互に見比べ嘆息する。
スネークのために畑や果樹園も作っておいてやりたいが、……とてもそこまで資金が回らない。
これでその勇者とやらを撃退できればしばらく人間も襲ってくることはないだろうから余裕も出来ると思うのだが。
ここが山場か。



数日後偵察に出していたモンスターからとうとう勇者が出張ったらしいとの情報が入った。
「とうとう来るか」
「そのようですね」
「モンスターたちもがんばってあそこまで育てたのに……俺にも懐いてきてたのに……」
「半分はやられてしまうかもしれませんね。まぁ一度やられてもレベルは下がってしまいますが復活できますから」
「同じモンスターが?じゃあ俺のこと覚えてるの?」
「えぇ、まぁ中には知性のないものもいますからそいつらは無理ですが」
「そっか。とにかくがんばってもらうしかないなぁ」
「それと捕虜の牢を少し手前に移動させておきましょう。もしかしたら捕虜を助けたら満足して帰るかもしれませんしね」
「あぁ頼む」
とにかく出来るだけ今後の資金繰りのためにも被害は最低限に抑えたい。
そのため出来るだけの準備はしておいた。
そしてとうとうその日がやってきた。
「カズヒラさまは万が一のために奥で隠れていてくださいね」
「え、でも……」
「勇者を甘く見てはいけませんよ?たとえ竜型になったとしても死ぬことは無いにしてもかなりの深手を負わせられます」
「……わかった」
「状況は逐一報告いたしますので」
カズヒラは仕方なく私室のさらに奥へと隠れた。
度々届く伝書によると、勇者と一緒に来た人間たちは早々に撃退できたらしいがやはり勇者は一筋縄にはいかないらしい。
捕虜数人を逃がしたようだ。
さてそのまま逃げればよし、奥まで辿り付くようならば自ら撃退に出ることも考えねばならない。
……。
…………。
連絡が来ない。
まさかマングースまで?
心配になってきたころようやっとマングース本人が現れほっとした。
「よかった、無事だったか」
「えぇ、もちろん」
「で、勇者は?」
「捕虜を幾人か逃がしたあとウロウロとしておりました。偵察を行っていたようですが他に捕虜はいないと見ると怪我をした他の同行者を連れて帰っていきました」
「……そうか」
「しかし油断は出来ません。また来ないとも限りませんから早急にモンスターを補充し壊された罠などは修繕したほうがいいでしょう」
「罠の場所も変えておいたほうがいいな。マッピングされているだろう」
「そのほうがよろしいでしょうな。すぐに手配します」
ひとまずの危機は去った。
なかなかランクの高い勇者のようだ。
手際がよすぎる。
このような巣に潜入するのに慣れているのかもしれない。
こうなったら頭脳戦だ。
ダンジョンの罠の配置も変え複雑にしておいたほうがいいだろう。
ふむ、危険とはいえなかなか楽しいかもしれない、とワクワクしはじめた。
そうしてカズヒラと勇者の攻防戦がはじまった。
その後勇者は一人で来るようになった。
大半の罠は掻い潜られたがカズヒラも負けてはいない。
もとよりこういった作戦を立てることに長けていた。
ギリギリのラインで勇者を撃退した。
しかし人間もやるものだとカズヒラは人間に対する評価を改めた。
人間といったら野蛮なものと思いこんでいたからここまで頭がいいとは思わなかった。
資金繰りは厳しかったがホーネットに頼んで金策してもらい、なんとか凌いだ。
さて次こそ捕まえてやる。
カズヒラは入念に計画を立てた。
幾度かの襲撃で勇者のタイプは予想できた。
それによりある程度の行動予測も立てられる。
何パターンかの予測をたて、それすべてに対応し、かつ失敗した後のケアも考えた。
完璧だ。
「カズヒラさま、楽しそうですね」
「そうか?……そうかもな」
「でも何故捕まえるような作戦を?その分コストもかかりますし大変では?」
「……話をしてみたいんだ」
「話?」
「ここまで楽しませてもらったからな。たとえ人間でも敬意を表したい。あとは……どんな人間なのかなっていう好奇心かな」
「なるほど」



作戦は成功した。
「勇者は?捕まえられたか?」
「はい、捕虜の牢に入れてあります」
「落ち着いた頃を見計らって会えるよう手配してくれ」
「かしこまりました」
数時間後思ったより早くその機会はきた。
カズヒラが恐る恐る牢の間へと入る。
先日まで入っていた捕虜はこの勇者がすっかり逃がしてしまったので今はほぼ空だ。
奥の牢にぽつんと小さい明かりが見えそこに両手両足を拘束された人間がいるのが見えた。
その人物を確認したと同時に目があった。
ギラリと暗い闇の中で目だけが光る。
「……あんたは?」
低くしかし凛とした声が響く。
「一応……この巣の主だ」
「……あんたが?」
そういってその目が足元から頭まで視線を這わせたのがわかった。
値踏みされたようで気分が良くない。
人間の癖に生意気な。
「人間の割には良くやったと敬意を表したくてね。私自ら君に会いたかったんだ」
「……俺に?」
「そう」
「……俺からも言わせて貰う。今まで竜退治は数多くしてきたが……ここまで手こずったのも、こうして捕まったのもあんたが始めてだ」
「ほう。さしずめ君は伝説のドラゴンハンターか?」
「そんなものじゃない」
「……名前は?」
「…………あんたが名前を教えてくれたら教えてやる」
「………………」
さすがにここまでやるだけあって生意気な人間だ。
しかし嫌いじゃない。
「カズヒラだ」
素直に名前を言うとまさか名乗るとは思っていなかったらしくその人間は目を丸くした。
「君の名前は?」
「……ソリッド……ソリッドだ」
「ソリッドか」
「それで……俺をどうするつもりだ。尋問しても無駄だ。最初の襲撃以降は……単独の行動だ。誰かに雇われての襲撃じゃない」
「尋問?……私はただ君と話したかっただけだ」
「…………」
「あぁでも……そのあとは考えてなかったな……でも逃がしてまた来られても困るし……」
「…………」
「…………君が私を傷つけないと約束するまでひとまずそこに入っていてくれるか?」
「……殺さないのか?」
「殺す?何故?」
カズヒラは人の街を襲いはしたがまだ一人も殺したことはない。
怪我をしたものはいるかもしれないが死者は一人もいないはずだ。
もちろんここに入った冒険者たちも撃退するか捕虜にして大人しくなった後は逃がしていた。
本気で分からず首を傾げると、人間も複雑な顔をする。
そのまま一言もしゃべらなくなったので仕方なくカズヒラはその場は諦めた。



「おはよう。ソリッド」
何度目かのここへの来訪。
今日は朝食を持ってやってきた。
もちろんソリッドの分も持って。
あれ以来なかなか話してはくれないが、大分穏やかな顔つきになったと思う。
飯も普通に食べる。
無言ではあるがカズヒラの作ったものを素直に食べてくれるさまに満足してニッコリと笑う。
ふと目が合った。
「なんだ?今日のメシは口に合わなかったか?」
「いや……美味い……」
「そうか、それは良かった。それは私が作ったんだ」
「……あんたが?」
めずらしく今日は話してくれるようだ。
「あぁ、もちろん」
「……この巣は『王の巣』じゃないのか?」
「……どうしてそう思う?」
「他より厳重だし……何よりあんたは他の竜より優秀だ」
「そう思ってもらえるのは光栄だが……少なくとも私は王じゃないな」
「……ならあんたは何者だ?」
「さぁ?……ごく一般の竜と変わらないと思うが?」
「……………」
納得いかないのかジトリと睨まれる。
しかし嘘は言っていない。
もちろんここがいずれ「王の巣」になることも知られてはいけない。
「本当に?」
「どうしてそう疑う?」
「…………あんたみたいな竜は……初めて見たから……」
「ふむ、確かに毛色は珍しいかもしれないがそれだけでは?」
「それに……」
「それに?」
「……いや、なんでもない」
何故かそれきり顔を赤らめて俯いてしまった。
もう話してくれそうにない。
メシはもう全て食べていたようだから食器を片付け諦めて去ろうとした。
「なぁ」
呼び止められて振り返る。
「なんだ?」
「もう一度聞く。あんたは俺を……どうするつもりだ?」
「別に。君と話したかっただけだ。君がもうここへは来ないと言うなら今すぐにも解放するが?」
しかしソリッドは静かに顔を横に振るだけだったので結局カズヒラはそのまま牢を出た。

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