SS2

□巣作りドラゴン〜勇者、騎士になる
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あれから数日。
すっかり人間がしゃべらなくなってしまったのでカズヒラはつまらない。
「約束してくれるなら解放するぞ?」といっても静かに首を振るだけ。
最初はしっかりと食べていた食事も徐々に食べなくなってきた。
このままでは殺す気がなくても死んでしまうかもしれない。
それはカズヒラの望むことではない。
どうしたものかと頭を悩ませた。
何故頑なに首を振るのか。
分からない。
だんだんとやつれていくソリッドを見るのが切なくてここ数日顔も出していなかったが、再度食事を持ってたずねることにした。



「ソリッド?」
「………………」
返事が無い。
目を閉じて微動だにしない。
まさかもう死んでしまった、ということはないよな?と恐る恐る近付く。
しかしよく見れば胸がわずかに上下していて生きていることが分かる。
ほっとしてさらに近付く。
「ソリッド?寝ているのか?」
「…………いいや」
水分もろくにとっていないせいかひどくその声はかすれている。
「何故最近食事をとらない」
「…………『もうここへ来るな』というあんたの約束を守れない。
しかし俺は戻ることも出来ない。拘束された状態では自害も出来ないからな。静かに死を待つほかあるまい」
「……何故戻れない?何故死を選ぶ?」
「………………」
「無理矢理君を生かすことだって我々には可能なんだぞ?」
「……水を……」
水差しから水を飲ませてやると、よほど喉が渇いていたのか一気に飲みきった。
しかしそのせいでしばらく咳き込んでしまい落ち着いてからまた水を飲ませてやる。
「すまない。もう大丈夫だ」
「……話してくれるのか?」
「話さないとあんたは納得しないんだろう?」
「あぁ、その通りだ」
「俺は……俺の一族は竜によって滅ぼされた」
「怨んでいたと?」
「あぁ、怨んでいた。だから俺は誓ったんだ。竜に復讐し騎士になり一族を……家を復興させると……」
「………………」
「だけど俺はあんたを狩れなかった。……もうあんたを狩る気もなくなってしまった」
「…………」
「あんたを狩れない以上騎士への道も絶たれた。復讐もできなくなってしまった。そんな俺にはもう生きている価値は無い」
「……私にはわからないな。そんな生き方は……それに何故もう私を狩れないと?」
「………………」
「そこまでの怨みがあるなら、ここを逃げて私を討つくらいの気概はあっただろう?」
「はじめは……そのつもりだった」
「ならば食え。食って力を付けここを出て。……私のところへ来い。相手をしてやろう」
「………………」



それからその人間がどう思ったかは分からなかったがやっと食事に手をつけるようになった。
牢には入れてあるが、手枷、足枷は外してやった。
もちろんカズヒラも負けてやるつもりは無い。
どうあっても彼が自分を狩るか死を選ぶと言うなら、闘って死ぬほうを選ばせてやろうと思ったのだ。
そういった気持ちはわからなくもない。
私室はあれから広げたからそこで竜型になって闘っても……まぁかなり被害は出るが巣自体が壊れるようなことはない。
「カズヒラさま本気ですか?」
マングースは心配しているのかそれとも呆れているのか複雑な顔だ。
「そうだなぁ、多少弱ってるとはいえ結構苦戦したもんな。強いんだろうなぁ」
「怪我したら私が王様に怒られるんですよ」
「ごめんね?」
「……適当にいいわけします」
「うん、そうして。で、ソリッドはどうしてる?」
「トレーニングをしているようですな」
「ふぅん、一月近く拘束されてたのに動けるんだ」
「それでもやっとという感じですが」
「そう……ある程度回復するといいけど……よれよれで来られても俺も困るし」
「あなたは変わってます」
「そうかな?」
「まぁ嫌いじゃないです」
「ありがとう、あ、しばらくしたら装備も返しといてあげて」
「わかりました」
とりあえず栄養のあるもの食わせたほうがいいのかな?とレシピを考えたが。
自分を殺そうとする相手を気づかって料理するというのも変な話だなとカズヒラは苦笑した。



「カズヒラさま、カズヒラさま」
「うん……なぁに?」
夜中に突然マングースに起こされて寝ぼけ眼で返事をする。
「人間が決闘を申し込んでおります」
「……けっとう?」
「決闘です」
「…………人間ってだぁれ?」
「ソリッドですよ」
「……え?」
驚いて慌てて起き上がる。
「ソリッド?」
「その人間です」
てっきり牢を抜け出して不意打ちでくるかと思いきやまさか堂々と申し込んでくるとは。
「竜の間で待っています」
「わかった!」
カズヒラは勢い込んで竜の間に向かおうとしたがマングースに「ちょっと待った!」と止められた。
「なんだよ?」
「まずはお召し物をお着替えください。パジャマのままです」
「あ……そっか」
確かにそれは格好悪い。
慌てて着替えると竜の間へ向かった。
部屋の中央ではすっかり装備を完全にまとったソリッドが仁王立ちしている。
あれからたいして日もたっていない。
完全なときの状態に戻ったとは考えにくい。
しかし手を抜くのは失礼だろうとカズヒラは思った。
「寝ているところをすまなかった」
「いいや?むしろ不意打ちでくるものと思っていたが」
「あんたにそれは出来ない」
「ふむ?……よくわからんがまぁ全力でお相手するよ。ちょっと待ってくれ」
カズヒラはそういうと人型から竜型へと変化した。
人型のときはソリッドのほうが多少大きいが竜型になればソリッドの優に三倍はある。
金の鱗がろうそくの明かりでゆらゆらときらめく。
ソリッドがそれを見上げる。
「どうした?かかってこないのか?」
「………………あんたは竜になっても綺麗なんだな」
「ん?」
「ひとつ聞かせてくれ」
「構わん」
「何故俺を生かしてくれた?」
「何故も何も……私が殺したくなかっただけだ。人間のなかで初めて認めたのに」
「認めた?俺を?」
「あぁ君は人間に対する私の認識を改めさせてくれたよ」
「本当に?」
「嘘をついても何も得がない」
「………………」
一向に攻撃する気の無いソリッドにさすがにカズヒラも戦意を喪失して上げていたしっぽを下ろした。
半ば呆れながら「君は何がしたいんだ?」と嘆息するとソリッドはおもむろに跪いた。
驚いて見下ろす。
「頼む!俺を……あなたの騎士にしてくれ!」
「騎士?」
「人間の一生など竜には短すぎるかもしれない。それでもこの命続く限りあなたを守る。あなたの側から離れない」
「………………」
「頼む、俺をあなたの騎士に」
「本気か?そんなことをしたら君は二度と人間の元には帰れないぞ?」
「元より俺に帰る場所などない。あなたの側がいい」
何を気に入られてしまったのかこの人間は本気なようだ。
竜騎士の前例はないわけじゃない。
きっと彼もそれを知っていたのだろう。
カズヒラもこの人間は気に入っている。
殺したくないと思った。
「……わかった。では君を私の騎士に……」
「本当に?」
「あぁ、本当だ。そうだ、これを君に……」
カズヒラは自分のしっぽの先から一枚鱗をとり、それをソリッドに渡した。
「これは?」
「私の鱗だ。それを身に着けておけば他の竜から襲われない」
「……感謝する」
人型に戻るとソリッドがカズヒラの手の甲に恭しくキスをした。
それが人間の礼のとりかたなんだろうな、と好きなようにさせた。
改めて跪くソリッドを眺めていてふと気付いた。
雰囲気が人型のときのスネークに似ている。
もしかしたらそんな要因も彼を殺したくないと思った一つかもしれない。
会いたいな、とカズヒラはスネークに想いを馳せた。




*この世界で人間の平均寿命は50年〜60年。

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