SS2

□巣作りドラゴン〜王対騎士
1ページ/2ページ

「え?」
マングースは目を丸くした。
「だから、こいつがこれから俺の竜騎士になるって……」
「仮にもあなたの命を狙ってきた勇者ですよ?」
「…………」
ソリッドはただ寡黙にカズヒラの横に佇んでいる。
疑われて当然だ、と言い訳をしたところでどうしようもないことを分かっているからだろう。
「……裏切ったら殺すだけだろう?」
その少し冷たい言い方にもソリッドはやはり黙っている。
それが当然だと分かっているから。
「……わかりました。で、私は彼にはどう接すれば?」
「俺の使用人だ。そのように扱ってくれ」
「かしこまりました」
「まぁ勝手に働くだろうけど…こいつが分からないことはお前が教えてやってくれ」
「そのようにいたします」
それからのソリッドはカズヒラが起きている間は常に側で警護にあたり、人間が侵入した場合は真っ先に撃退に向かった。
もともと人間としてSランクだった彼は下手なモンスターよりも優秀だった。
モンスターたちの中に人間が一人というのはどうだろうといささか心配したが、お互いの距離を覚えたのか上手くやっているようだ。
始終べったり張り付かれているのも、はじめこそ慣れずにうっとうしく思ったが。
本当にただいるだけで干渉もされないので最近は銅像か観葉植物かのように扱っている。
それでも本人は特に不満がないようなので好きにさせている。
部屋はモンスターと一緒にするわけにもいかないので、一室作ってやった。
本人の希望でカズヒラの寝室の側だ。
何かあったときにすぐに駆けつけられるようにということらしい。
まぁ巣の一番奥にある寝室にまで来れるような人間や獣人がいるとは思えないが。



カズヒラにとって吉報が入った。
スネークが巣を見にくるらしい。
最近はようやっと余裕が出来て果樹園を作った。
スネークの好きそうなものを植えたからぜひ見て欲しいと思っていたのだ。
モンスターたちにも伝えてあったから今度はおびえることは無く待機室で大人しくしている。
「スネーク!」
今回はお忍びではないからホーネットも一緒だ。
「おぉ!すっかり巣もでかくなったじゃないか!さすが俺のカズだ!」
そういってスネークがカズヒラの頭をグリグリと撫でる。
子ども扱いのようなそれは少々気に食わないが褒められて悪い気はしないので、はにかみつつ「まだまだだよ」と返した。
私室に通すとスネークがソリッドに気が付いた。
ソリッドもスネークを不審げな感じで観察している。
そういえばソリッドにスネークが来ることを伝えるのを忘れていた。
「なんだ?あの人間は」
「えっと……俺の騎士になりたいって……人間にしてはかなり強いから」
「竜騎士?まだ人間と交流があったころはたくさんいたらしいが……珍しいな……」
「ソリッド……彼は……私の婚約者で……身分の高い人なんだ。礼をとってくれるか?」
「そうでしたか。それはご無礼を」
「いや、構わん」
スネークも特にソリッドの存在を否定しなかったし、ソリッドも確かにスネークに礼をとった。
しかしこの空気はなんだろう?とカズヒラは少し不思議に思った。
何か張り詰めたような……スネークも人間は信用しきれないのだろうし、ソリッドも威厳のあるスネークに恐れをなしているんだろうなとカズヒラは解釈した。
仕方なくソリッドに「下がっていてもいい」と声をかけたが「いいえ、客人もいらっしゃるなら余計警護に気をつかうべきです」と拒否されスネークも「おぉ、働け」という始末。
間に挟まれたカズヒラはいたたまれない空気にふぅと小さく嘆息した。
スネークに同行したホーネットは別室でマングースと会議中らしい。
巣を査定しているんだろう。
あとどれくらい大きくすればスネークはこの巣で暮らせるんだろう?
スネークの部屋はすでに一応作ってはあるが仮にも王の部屋としてはまだまだ狭い気がする。
スネークはカズヒラの先ほどの嘆息をそのせいだと感じたらしく「緊張する必要は無い。査定といっても儀礼的なものだ。俺的にはもういつでもこっちにきても構わないんだが執務の問題でな……すまんな……寂しい思いをさせて……」
そっと頬に触れる大きい手のひらがあたたかくカズヒラはうっとりとそれに目を閉じる。
「ううん、仕方ない。俺なら大丈夫だから……」
スネークの顔が近付くのが分かってカズヒラはそのまま身を委ねようとして……ソリッドの存在にふと気が付いた。
慌てて身を離すと目の前にすこし不満げなスネークの顔。
一人のときはさして気にならなかったソリッドの存在がここにきてひどく恥ずかしくなった。
さらにそこへホーネットが戻ってきた。
スネークはますます不満げな顔になる。
「おや、お邪魔でしたか?これは失礼を……」
さすがにホーネットはそれに気付き形だけ謝ったけれど、王のそういった態度にはもう慣れているのかしれっとしている。
チラリとソリッドを見れば何故かこちらもおもしろくなさそうな顔で仁王立ちしている。
婚約者といえど普通の恋人のようにはいかないのだな、とカズヒラは再度……今度は深く嘆息した。
その後は結局今後の巣作りの傾向、婚姻の儀の日取りなど話し合い、ゴールは見えてきたとはいえ甘い雰囲気のかけらもなくスネークの帰る時間になってしまった。
このまま結婚になるんだろうかとカズヒラは少し不安になった。
スネークを好きになり始めているとはいえ、彼との接した時間が少なすぎる。
昔のことも思い出せていない。
二人の時間が欲しい。
恋人のように甘い時間でなくてもいい。
彼に聞きたいことがたくさんある、言いたいことがたくさんある。
それだけなのに。
でもそれはきっとスネークも同じはず。
「カズ……」
「大丈夫。俺がんばるから」
だからスネークに寂しい顔は見せられない。
あとちょっとだから。あとちょっと頑張れば一緒になんだって出来るから。
カズヒラからスネークの頬にキスをすると、スネークは懐かしげに微笑んだ。
「……あぁ、あの時もお前はこうやってキスをしてくれた」
「そうなの?」
「あぁ」
スネークは愛おしそうにその場所を撫でさする。
「俺も頑張らないとな」
「うん」
カズヒラはしばらく姿が見えなくなってもその空を見上げていた。



「あの人は……」
「ん?」
部屋に戻ると珍しくソリッドから声をかけてきた。
「あの人はあなたを幸せにしてくれるのですか?」
「……うん」
「……あなたにとって大事な人ですか?」
「うん、大事だ」
「ならば俺はあなた方を守りましょう。改めて誓う」
「……ありがとう」
彼なりに気を使ってくれたのだと嬉しかった…がふと思うところがあり一言釘をさした。
「あ〜…でも出来れば二人のときは席を外してくれ」
いつものようにべったり張り付かれてはさすがに恥ずかしい。
「…………ちっ」
「……今舌打ちしたか?」
「気のせいです」
「………………」
「気のせいです」
「……うん、まぁいいけど」
それきりまたソリッドは動かなくなったので、気にしても仕方ないとカズヒラはまた巣作りに戻るのだった。



次ページにおまけありw
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ