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□巣作りドラゴン〜丘の上で
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人間もさほど襲ってこなくなった。
ソリッドの強さのおかげもあるが、鉱石で得られる収入が安定したのと、畑や果樹園である程度自給自足できているため人間の街を襲わずに済むようになってきたせいもある。
自らを襲わない竜ならば、かえって他国に教われない抑止となるためむしろ大事にされる。
定期的な貢物を送ることによって竜がその土地を守るという共存関係がうまれる。
そのため巣作りは順調に進み、誰が見ても王に相応しい立派な巣になりつつあった。
カズヒラは当初巣作りに全く興味がなかったため、本人も、そして回りも誰もが彼がここまで早く巣を作り上げるとは考えていなかった。
竜の国での評価はすっかりと変わった。
スネークは内心(当たり前じゃないか。俺が選んだ奴だぞ)と思ったが彼がそういうことでカズヒラに反発がくるのを恐れ黙っていた。
もちろん本心は自慢しまくりたかったのだが。



「もういつ王様がここへ来ても問題ないですな」
感慨深げにマングースが巣を眺める。
「なぁ……マングースはこの巣が出来上がったらどうするんだ?帰るのか?」
「あくまで私はここへ派遣されているだけですからね。一旦商会へ戻りますよ」
「そっか……」
「でもこの巣の担当であることには変わりありませんから。たとえばお子様が産まれましたらお子様のお部屋も新しく作らないといけませんね。その際はパンフレットを持ち込んで営業しますよ」
「……そのまえにもいろいろ呼びつけることが増えるかもよ?」
「……何故ですか?」
「スネークが巣を度々壊しそう」
「……なるほど」
二人顔を見合わせ苦笑した。
ソリッドは相変わらず背後で仁王立ちしている。
ただ最近は人間が襲ってくる回数がぐんと減ったので、モンスターたちと訓練をしているらしい。
おかげでモンスターたちの統率もすばらしくまるで軍隊だ。
カズヒラとしては勝手気ままなモンスターたちをかわいくも思っていたのだが、王を守る巣としてはそれくらいでいいのかもしれない。
ただ困るのは罠の配置をソリッドに任せたら、度々変えるのでソリッドがいないとダンジョン内を歩けない。
見取り図は作っていないのかと聞いたら「俺がいるのだから問題ない」と返された。
確かに敵を欺くにはまず味方からとはいうけれど……巣の主人が巣を一人で歩けないというのはどうなんだろうかと疑問に思わなくもない。



あと一月もせずにスネークはここへくる。
しかしカズヒラはその前にやっておきたいことがあった。
それが叶うとは思っていなかったが、ホーネットの協力で実行できることになった。
風のよく抜ける小高い丘。
いくつかの墓石が立つ。
そう、ここは王の家族が眠る場所。
まだ思い出せないけれど恐らくカズヒラとスネークがはじめて会った場所。
「う〜ん……ここにくれば何か思い出すかと思ったけど……やっぱり覚えてないな」
カズヒラは一人そこに立ち、幼い頃のことを思い出そうとしたがどうしてもスネークとあったときのことを思い出せない。
ただうっすらとよくこの丘から少し下ったところにある原っぱで遊んでいたのは記憶にある。
たしか花がたくさん咲いていて綺麗だった。
その原っぱからこの丘はよく見える。
その時にスネークを見つけたのだろうか。
慰めた、という話だから彼は先代の伴侶を失って泣いていたのだろうか?
あのスネークが泣く?
想像がつかないな、とカズヒラは思わず噴出した。
「おい、何笑ってるんだ?」
その時背後から声がして慌てて振り返る。
「スネーク!来れたんだ!」
「あぁ、お前からの誘いを俺が断るわけ無いだろう?」
「でも……」
「ホーネットが変わりに執務とってる。内緒で」
「……もしかしてよくそうやってさぼってる?」
「さぁな」
王様とは思えないような悪戯っこのような笑みを浮かべる。
それにカズヒラはホーネットもかわいそうに…と苦笑で返した。
「それで?」
「ん?」
「何かあったのか?」
「あ〜…いや、その……二人で……話したくて……」
「……それだけ?」
「ごめん。忙しいのに……だけど……伴侶に選ばれてから今まであんたと二人で話せたのなんてほんの少しで……俺はあんたと会ったときのこと覚えてなかったし……このまま結婚は不安だったんだ」
「………………」
「本当にごめんなさい……」
「いや、違う。嬉しいんだ。お前が愛おしくて身震いしそうだ」
己のわがままだと思っていたカズヒラはすっかり俯いていたが、本当に声を震わせるスネークにようやっと顔を上げた。
「あぁ全くだ。俺たちにはこんな時間がもっと必要だった。
だけどカズ……不安に思うことは何もない。焦らなくていい。
結婚なんてあくまで通過点だ。これから……こういった時間を作ればいいんだ」
「でもスネーク……」
「それとも本当は嫌か?結婚……」
「そん……なこと、ない」
「無理しなくていいんだぞ?」
「無理してない!」
ついむきになり怒ったようにスネークを見上げる。
しかしスネークの顔はどこまでも優しく笑っている。
「あぁ、違う違う。こんなことをしたくてあんたを呼び出してもらったんじゃないのに……」
「俺はお前とならなんでも楽しいぞ?」
「そうじゃな……あぁいや俺も嫌じゃないよ。そうじゃなくて…
スネーク、教えてくれる?初めて会ったときのこと……そこから……やりなおしたい」
「……あぁ、いいとも」
改めて二人でその丘に腰を下ろした。
スネークは懐かしそうに語り始めた。

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